PHASE-508【立場をわきまえて接しよう】

「感動の救出劇といきたいけど、ここがゴールじゃない」


「パルメニデス様を救わないといけませんからね」

 可愛らしい笑みから、キリッとした表情になる魔王ちゃん。やはり見た目よりも年齢は重ねているようで、急に大人っぽくなる。


「救い出して脱出までがゴールだけどね」


「そうですね」

 首肯する魔王ちゃん。

 魔王ちゃんと心では思っていても口にはしない。不遜にあたるからな。

 なんたって魔王様なんだから。


「じゃあ、先に進もうか。リズベッドさん――様?」


「敬称は不要です。ただリズベッドとお呼びください」


「了解だリズベッド」

 だからなんでそこでゲッコーさんが参加するの。

 小さい子が好きなの? タナー段階Ⅰを愛でる組織に入ってるの?


「ではリズベッドは私達の後ろに」


「はい、ベルヴェット様」


「いや、ベルでいい。皆がそう呼ぶからな」


「畏まりましたベル様」

 なんとも礼儀正しい魔王様である。


「私のことも――――」


「よし行こう!」


「なんですとぉぉぉぉぉぉ!」

 ガスマスク越しのくぐもった声であるのに、よく響くもんだ。

 魔王という最高位の存在に様付けされたいという魂胆が見え見えなのだよ。コクリコ君。

 リズベッドにコクリコ様と言わせない意地悪な俺。

 そんな俺にぶうたれるコクリコではあるが――、


「コクリコとシャルナはここで待機な。後方から敵が多く来た場合は、戦わずに隠れていてくれ」


「またですか。出来れば参加したいのですが」

 異を唱えるのは、火龍の時と同様にコクリコ。


「またですよ。言うことを聞かないでベルに縛られるのはいやだろ。その後、俺が股間にダメージを受けるのも嫌だし」

 言っててなんだが、火龍を救い出して、コクリコの拘束を解いてやった時の股間に見舞われた鈍痛の記憶が甦ってきた。

 若干だが、記憶のせいで内股になってしまう俺。

 納得がいかないようだが、コクリコも学習している。

 ベルとゲッコーさんを怒らせるのは得策じゃないからか、素直に頷いていた。

 こっちとしてもこれからの大一番で、戦力が落ちるのは嫌なんだけどな。


「あの、よろしいでしょうかトール様」


「なんだい?」

 本来なら敬語なのだろうが、容姿と柔らかな物腰から、リズベッドに対して親しい感じで応対してしまう。

 前魔王派閥の、特に重鎮クラス面々がこのやり取りを目にしたら、無礼であると、間違いなく不快になるだろな。

 その時が訪れたら恭しく接して、リズベッドに対しては敬称と敬語で対応しないとな。

 親しくはしても、馴れ馴れしくなってはいけない。これは社会に出た時にも必要な社交能力だろうから、今のうちに鍛えておこう。


「私も同行するので、お二人の問題はお任せください」


「任せるって?」

 言葉より行動ということなのか、リズベッドがガスマスクを装着した二人に手を向けて、


「パーソナルリフレクション」

 と、唱えれば、二人の体を青白い光が包み、燐光が舞う。

 しばらくすれば、光は不可視の状態になった。


「これで大丈夫ですよ」

 愛らしく笑むリズベッド。

 大丈夫とは一体どいうことなのだろうか?

 頭を傾げていれば、


「ふい~」


「ふぁ!?」

 驚きである。

 瘴気が濃厚に蔓延しているこの状況で、シャルナがガスマスクを外す。


「何してんの!」

 興奮しつつ直ぐに装着しろと言えば、


「大丈夫だよ」

 問題はなさそうで、明るい表情。

 ようやく息苦しさから解放されたと、ご満悦のシャルナは瘴気の中で深呼吸をはじめる。

 リズベッドが使用したパーソナルリフレクションなる魔法は、聖光魔法の上位魔法だそうだ。

 一度発動すれば、半日は毒気が充満する空間でも活動できるという素晴らしい魔法だという。


「流石に大人数というわけにはいきませんが、少数なら」


「いやいや助かるよ。流石は魔王様だ」

 本来の力なら、大人数であっても問題なく魔法付与が可能だったそうだが、ショゴスに奪われたことで、大規模なマナのコントロールは難しくなっているそうだ。

 それでも半日は瘴気から守ってもらえるってのが凄い。


「――おお! 本当に瘴気の中でも気分を害することがないですね。やりますね。リズベッド」


「ありがとうございます。コクリコ様」


「これからも頼りにさせてもらいますよ」


「はい、頑張ります!」

 おお……。なに魔王に頭さげさせてんだよ。様付けされてムフフ――って喜んでるな。

 やっぱり様付けで呼んでもらいたかったんだな。有頂天じゃねえか。


 相手が魔王であろうとも、しっかりとマウントをとりたいのがこのまな板なのだ……。

 全ての面で負けているのに。

 上位魔法とか使えないのにこの態度。

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