PHASE-507【庇護欲が芽生えそう】

「当然だけど、そこから出せばいいんだよね」


「可能ならばお願いいたします」

 典雅な一礼だ。俺がイメージする魔王とは本当にかけ離れている。


「んじゃ、やりま――」


「どっせいや!」

 俺の見せ場を奪う気満々のコクリコが、ハイキックで金魚鉢のデカいのに蹴りを入れる。

 とても美しいハイキックだった。見せ場を奪われたという苛立ちよりも、蹴りの姿勢に感嘆する方が勝ったくらいだ。

 だがしかし、美しい蹴撃であったとしても、全くもってびくともしない。

 流石に蹴りでは無理があるだろう。

 

 試しにノックをしてみれば、


「透明だけどガラスのような、そうじゃないような」


「強化ガラスに似ているな」

 俺に続いてノックするゲッコーさんの感想。

 ちょっとやそっとの衝撃には耐えうる代物のようだ。


「はっ」

 コクリコに続いて自分も試してみたかったのか、ベルもハイキックを打ち込む。

 先ほどの、お手本になるようなコクリコのハイキックの美しさをあっという間に更新する蹴撃だった。

 やはり足の長さは大事なんやな。って、考えさせられた。


「ふむ」

 流石にベルの蹴りであっても、傷をつけるのは無理だったようだ。


「ならば! ファイ――」


「ランシェル」

 貴石を赤く輝かせたワンドを構えるお馬鹿を即座に拘束してくれる男の娘のメイドさん。

 場所を考えて魔法は使用してもらいたいね。

 当たっても問題はないだろうけども、爆発が俺たちの方に来ても困るからな。


「これは魔力付与されたクリスタルからなる物ですので、そうそう簡単には破壊できません」

 拘束しつつ説明をしてくれるランシェル。

 多分C-4 だったら開けられるだろうけど、結界魔法が使用出来るとはいえ、球体内を襲うであろう爆発と衝撃を魔王が絶対に防げると思ってはいけないからな。

 可能な限り安全に助け出したい。

 なので、


「ちょっと離れてて」


「はい」

 俺の残火が活躍する時だな。

 大上段で構えて、


「キェェェェェェェェイ!」

 猿叫と共に振るえば――――、バイィィィィィンと、音を奏でて弾き返してくる。

 流石は魔力付与されている代物だ。

 金属とかバターみたいに斬ってしまう残火にも耐えるか。

 振り下ろした部分に目立った傷はない。強度はかなりあるようだ。


「細かく解体して、素材に使いたいくらいだな」


「余裕ある発言だな。次は本気の一太刀を見せてもらおう」

 美人中佐に期待されれば、やる気なんて簡単に出る。


「トール様」

 閉じ込められている美少女が祈るように手を組んで、俺の名を口にして期待すれば、更にやる気は倍増だ。


「ブレイズ」

 俺の気合いが伝播したかのように、刀身にはゴウゴウと炎が激しく逆巻く。

 コントロールを上達させれば、一人でも終の秘剣もどきが出来そうな気がしてきたな。

 再度、大上段に構えて、クリスタルを炯眼で睨み、柄を搾るように握り直してから、気勢と共に残火を振り下ろせば――――、

 今度はすぅぅぅっと、クリスタルへと刀身が入る。

 入ればこっちのものとばかりに、体重を乗せて腕を動かせば、苦も無く刃が動き、クリスタルの金魚鉢に切れ目が入って行く。

 後は長方形を描くようにして残火を動かし、


「――ほいっと」

 斬ったクリスタルを外側へと手で出してやれば、立派な自由への出口の出来上がり。

 切り出した部分からは、内部に溜まっていた多色からなる燐光が、ほうっと外へと出てきて、すっと消えていく。

 その光景は幻想的だった。


「さあ」


「ちょっと!?」

 俺が残火を収めている間に、ゲッコーさんが両手を伸ばして、魔王ちゃんの両脇を持ちながらおろしてあげる。

 いいところを持って行かれた気がしてならない。

 しかも紳士なゲッコーさんは、水たまりに素足をつけないように、床ではなく、台座の出っ張りに立たせてあげる。


「半長靴を出してやってくれ」

 いいところを奪った人からの要求。

 魔王ちゃんの御御足に合いそうな半長靴は無いとは思うけど、素足で歩かせるよりはましだからね。

 プレイギアより半長靴を出す。


「便利な力ですね」

 感心しつつサイズが大きい半長靴を履き終える。

 ――――うん。可愛い。

 水色の長い髪に、雪肌。白いワンピースに、大きいサイズの黒色の半長靴。

 この不釣り合いな半長靴が、逆に可愛さを引き立たせている。

 守ってあげたいという気持ちになるね。


「改めまして、皆様、お救いくださりありがとうございます。リズベッド・フロイス・アンダルク・ネグレティアンと申します」

 ワンピースの裾を摘まんでのカーテシーでの挨拶。

 魔王ちゃんの横では、主が救われたことにランシェルが涙を浮かべて喜び、主に続いて俺たちに深々と一礼。

 にしても、一度では覚えられない名前である。

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