PHASE-740【馬鹿の頭の回線は混線してるから困る】

「そ、そんな事はどうでもいい事だ。なぜ身内の事情を他者に話さねばならんのか。俺が言っているのはお前の力を貸せということだ」


「だからやだよ」


「貴様! 刃向かうか!!」

 お? やんのか?

 意気揚々と立ち上がってるけども。

 なんか無理に話を反らせるための動作にも見えるけど。やはり突っ込まれたくない内容のようだな。身内殺しってのは。

 跡目争いには興味無いとばかりに、側にいる四人衆は馬鹿息子が動いたからか、馬鹿息子の位置から一歩前に出るような動きを見せてくる。

 対する俺は強者の余裕とばかりに腰は下ろしたまま。

 ベルがここにいれば油断だと怒られるかもしれないけど、どうしても余裕の方が勝るんだよな。

 ――――だってこいつら弱いもん。

 見ただけで分かるようになってきた。これも戦いに身を投じてきたからってのもあるんだろうけど、弱いってのははっきりと分かる。

 それこそ俺が最初にぶつかったホブゴブリンのバロニアを相手にしたほうが苦戦するってレベルだと思う。

 もっというと、こいつらはチコよりも弱いだろうな。

 チコよりも圧がないし。

 てことはレベルは17よりも下って見ていいだろう。

 わざわざプレイギアで調べるまでもない。

 この場にいる侯爵と伯爵は未知数だけど、それ以外の面子なら四人が同時に攻めてきても、瞬時に倒すだけの実力を有しているのは確かだ。


 そう考えると、俺も随分と成長したし、召喚した人物以外にも頼りになる仲間達に囲まれて幸せだ。

 感謝の気持ちは忘れないでいないとな。


「何を頷いている! 俺を見ろ!」


「見たくねえよ」

 何が悲しく四十路の垂れ目おっさんを見ないといけないんだよ。

 俺の返しがおもしろいのか、名代二人にゲッコーさんとミュラーさんが肩を小刻みに震わせて笑っている。

 背後ではクスリとランシェルとマイヤも笑ってくれているようだ。


「屈辱だぞ! この地で俺にそのような態度を取るものはいない。俺の威光にひれ伏し従うのが当たり前なのだ!」


「え~非常に残念なお知らせがあります」


「なんだ? 勇者」


「あんたの威光じゃないよ。親父さんの威光だよ」


「何だと!」


「ハハハハハハ――――! 然り然り。流石は勇者殿だ。分かっていらっしゃる。勇者殿は強いだけでなく、ジェスターとしての才もありますぞ」

 堪えることが出来なかったのか、真っ先に笑ったのはやはりというべきか伯爵。

 遅れてクツクツと侯爵が声に出して笑えば、馬鹿息子は顔は更に真っ赤。


「お前たちは会談に来たんだろうが!」


「その通り。でもお宅は俺の下に来いとか。俺の為に力を貸せとか。全くもって実のある話ではないからな。自分自慢や権力者ごっこは自宅でやれ。こんな要塞でする事じゃない」


「折角、兵糧を送ってやろうと思ったものを」


「いや支離滅裂かよ」

 禅譲を迫ったり、王都に兵糧を送ってやるだのコロコロと変わるヤツだ。

 情緒不安定の馬鹿ってのは本当に常人の想像の埒外だ。


「本当に生意気な小僧だ。お前たちの出方次第では――」


「協力も考えてたなんて言うなよ。嘘にしか聞こえないから」


「生意気な事ばかりを口にする! その首を塩漬けにして魔王へと送り届けてやろうか! そうすれば魔王も勇者を討伐した存在として俺を恐れて侵攻をやめるかもな」

 自分を抑えることも出来ずにおっかない事を平気で口に出せる時点でコイツはダメだな。

 まあ、俺もか。ついつい嫌悪感から態度が悪くなったからな。

 それが分かっているのと分かってないのでは大きな差だけどね。という心の中での自己弁護。


「兵糧を渓谷から堂々と王都へと送り届けてやろう。俺が新たなる王となって!」

 言葉が繋がってないよ……。俺の首から、王になるとかって話の間は何処に行ったんだろうね。


「そんな事をさせるものかよ!」


「伯よ! いい加減に口の利き方に気を付けよ! 王家の血筋である!」


「王家の血筋ならば人々の為に早々に立ち上がるべきであったな! 我々が腑抜けであった時にこそ立ち上がれば、民だけでなく我々とて公爵殿とその子息を違う目で見たであろうよ!」

 俺の発言が原因だったが、徐々に場の熱が上がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る