PHASE-739【その自信はどこから来るの?】

「どうした? 食え。美味いぞ」


「おいそれと食えるか」


「なんだ伯? 毒でも警戒しているのか? 香りは楽しんでいたようだが」

 言われてむぅっと小さく唸るあたり、図星だったようだ。

 だからか言い返せないでいる。


「俺がそんな姑息なことをするかよ。俺のところにはこれだけの力があるというのを見せたいだけだ」

 武具防具だけでなく、兵数に立派な軍事施設。屋敷で出て来るような食事がいつでも並ぶ。

 これだけの力を自分は有しているのだというのを誇示。

 だからこそ次代の権力者として相応しいと述べ、こちらの警戒を解くために毒味をしてやろうと、得意げに自らが鳥肉の腿部分を切り取る――のではなく力任せにもぎり取り、贅沢に皮だけをべろんととって一口で頬ばる。

 ワイルドだろうという笑みをランシェルに向ける辺り、本当にランシェルのことを気に入ってしまったようだ。


 当のランシェルは困り果てたような笑みを顔に貼り付けつつも、近くにいる俺に聞こえる程度に、嫌悪感を抱いた溜息をこぼす。

 

 料理に圧倒されたと勘違いした馬鹿息子は饒舌となり、今、俺の下で力を振るうと約束すれば今以上の好待遇で迎え入れるし、先ほどまでの伯爵の不遜も完全に忘れてやると大いばり。

 皮だけを取った腿肉は放置して、次は白い粉に覆われたチーズに手を伸ばす。

 多分カビだろうからカマンベール系なのかな。

 それをケーキでも切り分けるようにしてこれまた豪快に口に運ぶ。

 大した咀嚼もせずに嚥下。

 口内をリセットするかのように酒を呷る。

 それを見て、ゲッコーさんも酒を呷る。

 この人は相手が敵性であろうとも、酒はお構いなしに飲むな……。


「返答がないようだが?」

 ゲフッと下品に息を出し、好待遇で迎え入れる事に対する返事がないと眉を吊り上げて、二人の爵位持ちを睨む。

 馬鹿息子に睨まれたところで毛ほども驚異を感じる事のない二入は、全くもって視線をそらさない。


「生意気な奴らだ。まあ王者の威光を身を以て知り、頭を下げさせるのも一興だな」


「ほう。まるで我々と一戦交えたいようだな」


「交えてやってもよいぞ。そして頭どころか額を地面にこすりつけさせるのもいいな。で、その禿頭を踏みつけてやるか。ハハハハ――――」

 余裕綽々に高らかに笑えば、四人の傭兵たちも続く。

 接待ゴルフの取り巻きなのかな?

 対するミランドとロイドルは、本当に危ない状況になってしまうとばかりに、この世の終わりみたいな顔をしている。


「まあ冗談だ。俺たちは平和的に禅譲し、そして魔王軍にしっかりと当たりたいからな。だからこそ気になる報があるのだがな。どうやって瘴気の中を移動した?」

 こればかりは看過できないのか、傲慢な笑みから神妙なものへと変わる。

 瘴気方面から攻撃を受けるなどという事があれば、渓谷を無視して糧秣廠が直接狙われるのは必須だからな。


「それはこちらにおられる勇者殿の奇跡よ」

 ドヤ顔の伯爵が俺へと手を向ける。


「ではその勇者よ、今後の魔王軍に対する事も考え、今すぐ俺にお前の奇跡とやらを見せろ。そして寄越せ」


「やなこった」


「なんだ――と?」

 おっと。別にこんな風に言うつもりはなかったけど、コイツのことを生理的に受け付けないからか、つい拒絶した発言をしてしまった。

 しかもしっかりとした声で。加えるならもの凄く無愛想による即答だった。


「勇者だからといってなんでも許されると思うなよ。俺は公爵の子だぞ」

 だからなんだよ。イキるなよ。ただの子供だろうが。

 といっても四十過ぎだぞ。四十過ぎて公爵の子ってパワーワードを使うとか。

 と、心底で返していれば、俺がほくそ笑んでしまったのがよほど気にくわなかったようで、


「俺は嫡子だぞ! 勇者であるお前の身の振り方だってどうとでも出来るのだぞ!」

 この発言には俺以外の面子もほくそ笑む。

 どうやってだよ。って話だからな。


「あれでしょ。嫡子って言ってもお兄さん二人が謎の死を遂げて、自分がその権利を得たってだけでしょ?」


「な!?」

 おっと驚きだ。

 なぜ知っているって感じだな。

 もしかしてこれはオフレコだったのかな。

 どうしてそんな情報を先生は知っているのだろうか? というので俺も驚きの表情になってることだろうさ。

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