PHASE-738【馬鹿は強いな……】
「とにかく王として相応しくないだろうが! 民を蔑ろにしていたであろう。民を苦しめる王などが王であっていいわけがない」
だとしてもお前が王であってもいいわけないけどな。
「王は立ち直っておられる。我々も含めてね」
「だとしても侯よ。もう手遅れだ。人々が窮地に立っている時点で任せきれない。だから俺たちが立ち上がったのだ」
「どう立ち上がるのだ?」
今度は伯爵が問う。
「俺たちが立ち上がり魔王軍から人々を救うのだ」
拳で自身の胸を叩きながらの演説口調。
「いや、だから具体的に言ってくれないか」
「我が兵力でだ」
「いや、確かに兵は多いが、魔王軍はもっと多いぞ」
「だからこそ我らが旗の下に力を集結させる」
「その為の行動を?」
「そのような事をせずとも、我が威光の下に皆が集う」
またも広間を嘆息が支配する。
「…………王はそれに対して様々な場所に檄文を飛ばし同志を募っている。それに卿も乗ればよいだろう」
「頼りにならんと言っている。俺が率いた方が十全の力を発揮出来る」
出来るはず――ではなく出来ると言い切れるあたり、馬鹿は凄い……。
「だからどういう風に力を見せるのだ。具体的に教えてほしい」
「ああもう! なんと五月蠅いヤツなのだこの伯は! とにかく今の王では頼りにならないから禅譲を迫るのだ!」
ええ……。侯爵もだったけど、普通に聞いてるだけじゃん。
なのにムキになって結局は薄っぺらい理由で禅譲を繰り返すだけ。
具体的な対案も出さずに、とりあえず批判だけをしていればそれが正しいと思っている、何処ぞの国の野党みたいだな。
「もし禅譲が叶ったら誰が後を継ぐのか? 公爵殿か? まさかとは思うが……」
伯爵は力なく食指を馬鹿の方に向ければ、
「そう、そのまさかである。つまりは――――俺だ」
間を作ってまで言って出て来る存在が、馬鹿息子自身のit's me俺発言……。
父上はもういい歳。無理はさせられない。ならば王族の血を引く自分こそが相応しいと、恥ずかしげもなく口に出す。
正直、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。
こいつもだし、周囲の四人衆もだけど、会話を聞いてるとこっちが恥ずかしさに襲われるんだよね……。
「だからこそ伯よ。俺に対しての不遜はここまでにしておけよ」
「ふん」
どかりと腰を下ろす伯爵の姿に、自分の威光がそうさせたと思ったようだが、伯爵はアホらしくて話す気が失せたというのが正しいだろう。
最初からそのように静かに座っていろとばかりに、
「俺は寛大だ。今までの非礼には目をつぶってやろう」
「流石はカリオネル様」
「我らが守るに値する御方だ」
四人衆に称賛を受ければ、「そうであろう」と、大喜び。
「では、寛大だからこそ持て成さねばな。食事にしようじゃないか」
手を叩けば横のドアから次々と給仕の女性たちが入ってくる。
馬鹿息子の趣味なのか、皆さん美人だ。
この中にお前達も入れてやるぞと、ランシェルとマイヤににやけた笑みで言うも、ランシェルは苦笑いで返し、マイヤは無表情で返していた。
気の強い女を屈服させるのも楽しいものだ。と、めげない発言は馬鹿だからこそだろうな。
「なんとも豪華な」
「であろう侯爵」
得意げに胸を反らせる。
確かに要塞――軍事施設の中で食べるようなものではない。
侯爵の別邸なんかで頂いた食事と同じようなものを食べられるのだから。
次々と運ばれる豪華な食事の中でも衆目を集めたのが鳥の丸焼き。
ダチョウサイズを丸焼きにしたような大きさだ。
丸々と太った鳥は丸ごとオーブンに入れられたようで、こんがりきつね色。
これだけのサイズを入れるオーブンとなればかなり大きなものなんだろうね。
軍事施設に必要な調理器具なのだろうか? 兵も多いから一気に焼き上げる為の調理器具が必要となるなら大型化もするか。
――いや、この馬鹿のことだからな。兵のためとかでなく、十中八九、丸焼き専用に作らせたと考えるべきだろう。
女性給仕が五人がかりで大皿に乗った丸焼きを運び、長テーブルの中央へと置けば、途端に部屋全体が芳ばしい香りで充満し、悔しいが口の中に涎が溜まってくる。
どうやら俺だけがこの香りの魔力に囚われたわけじゃないようだ。
しっかりと鼻での深呼吸をする伯爵の姿が目に入る。
香りを楽しんで――ほぅと、息を漏らすほどに興味があるようだ。
芳ばしさを際立たせるも、余分な脂っ気を打ち消してくれているのはハーブだろう。
芳ばしさとは別に、清涼さも鼻腔に届く。貴重な香草なんかもふんだんに使用されているのかもしれない。
「まずはそのままを楽しんでみろ」
――……これで上座に座っているのが威張り散らしている馬鹿息子じゃなければ楽しい食事となるんだろうな。
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