PHASE-737【下の者達には同情する】
「で……、その傭兵団が何用か?」
「我らはカリオネル様に雇われている」
「言わばカリオネル様の
「危機に瀕すれば」
「登場するのは当然!」
面倒くせえ……。
嘆息まじりに質問した伯爵は、聞き終えて更に長嘆息。
「あのさ。とりあえず面倒くさいから代表して一人が喋ってくれ」
お願いすれば、
「ならばここは四人衆筆頭の俺が」
「は? 団長が次に重きを置いているのは俺だぞ」
「いや俺こそだ」
「まて、ここは真の筆頭である俺が」
あ、やべぇ……。コイツ等ガチで面倒くさい奴らだ……。
俺たちは面倒だと思っているが、馬鹿息子は存外コイツ等のノリが好きなようで、畏怖で引きつっていた表情から笑みに変わっていた。
やはり一般的な感性ではないようだ。
「下がってもらいたい。話がややこしくなるのでな」
ここでミランドが苛立ちを宿らせて四人を退席させようとする。
「かまわん。俺の剣というのは本当だろう」
「カリオネル様……」
ああ、これはあれですな。
まさかの傭兵を重用しているパターンだな。
「なるほど。どおりで征北騎士団が麓に展開し、扉の前で番兵のような事をしているわけだ」
侯爵のこの発言にミランドが顔を伏せる。
本来なら、精鋭中の精鋭であるはずの騎士団が要塞にて主を守護しているはずだろうに、それが麓のテントにて一般の兵士たちと過ごしている。
もちろん戦時となれば最前線で味方を鼓舞する役割もあるだろうが、まだその時ではない。
現状の段階ならば、戦略的に最も重要なブルホーン要塞と主を守護する立場のはずなのだが、その立場を現在は傭兵団が務めているわけだ。
正規兵の中でも選ばれし者達であるエリート達からしたら、納得がいかないことだろうな。
糧秣廠の人足たちの不満に、エリート達の配置。
これは本当に戦いになれば簡単に陥落させられるぞ。
こんな事にも気付かないほどにこの馬鹿息子は馬鹿なのだろうか?
あまりにも馬鹿げているから、ワザと馬鹿を演じていると思えてしまう。
「さあ伯爵。席に戻れ。戻らなければ我が剣が動く」
ああ、本当にただの馬鹿だな……。
なにを格好つけて格好悪い脅し方をしているんだか。
自分の威光で下がらせることも出来ないなんてね。
俺の剣とか言われて側に立つ四人もまんざらではないし。
なんてこった……。向こうサイドは精神年齢が低すぎるのばっかりじゃねえか。
これは会談として体を成さない、実のないやり取りで終わりそうだな。
こういった滑稽なものを見せられると、袖の下で会談を取り持ってくれたロイドルにも同情する。
賄賂を貰ってから動くような駄目人間だと思ったけども、自分の上役がこんなのなら将来どうなるか分からないからな。
やり方はどうあれ、今後の事を考えて資産を貯える事を最優先としてたんだろうな。
ミランドは暗い表情のままだし。
仕方ないか。四人が四人とも入れ墨を入れてるような連中だからな。
貴族の話し合いの席で、目に入る位置に入れ墨を入れているような者を侍らせるってのは、貴族としての品格が問われるだろう。
「で、怒りの伯では話にならんだろうから。候よ、お前から話をしてくれ?」
ビキビキと震える伯爵を抑える侯爵だけども、上からな発言に対してにこやかな笑みを顔には貼り付けているけど、怒りを抱いているのは俺でも分かる。
――――怒りを抑え込んでいる侯爵によって、会談がようやく進む。
もちろんこちらサイドの話の内容は、なぜ王様を中心として結束しようとしている時に禅譲を迫ってくるのか――。
王土であるウルガル平野における糧秣廠の無断な建設はどういった事なのか――。
なぜ公爵はこのような事を行っているのかをお聞かせ頂きたい。と、怒りを隠しながらも、真っ直ぐと伸びた背筋からは威厳を感じさせる侯爵の問いかけに対して、馬鹿息子は話が長いとばかりに大あくび。
場が嘆息に支配される。
馬鹿みたいに大きく開いた口を戻したところで、
「王として相応しくないからだ。だからこちらが王の後を引き継いで人々を導く」
大きく口を開いたと思ったら、今度は大口を叩いてきやがりましたよ。
「何処が相応しくないのですかな?」
「全てだ」
「具体的に」
「全てだと言っている!」
侯爵の問いかけに馬鹿息子は怒気を飛ばす。
沸点の低いヤツである。
侯爵は別段、難しいことを述べてはいないんだけども具体的には返せない。
あいつにとっては難しい内容のようだ。
そもそも会談を受けた以上、話の内容がどういったものなのか予測して対応するだけの返答を用意しているのが普通だと、素人の俺でも思う所なんだけどな~。
本物の馬鹿なんだな……。
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