PHASE-1423【土いじり以外もしてもらわないとね】

「え!? ちょっとまっておくれよ! もしかして演習の百人に何かしらの力を付与してたってのかい!?」

 驚くミルモンは忙しなく俺とリズベッドを見つつ問うてくる。


「違うぞミルモン。百人と百頭だ」

 参加しているのは人間とゴブリン。これに軍馬とミストウルフが騎乗者と同数だからな。


「だよね?」

 と、継いで問えば、ここでも「はい」と愛らしい笑みと共に返してくれる。


「ほえ~。本当に凄いんだね」


「だって魔王だからな」


「は~。魔王様は偉大だね」

 世界は違えど、小悪魔ミルモンにとって魔王は偉大なる存在だというのは変わらないようで、今まで接してきた者達には見せる事のなかった片膝をついての礼節を俺の左肩にて行う。


「そんなに畏まらなくてもいいですよ。ミルモン様」


「オイラのような小悪魔に様をつけなくてもいいですよ」

 あらまあ!?

 まさかミルモンが敬語を使用して相手に接するなんて。

 流石は前がつくけど魔王だな。


「それで、百人と百頭にはどんな魔法を使用したんだい? バタリオンは分かるんだけどね」

 バタリオンという大人数に同時に魔法を付与できる魔法は、以前、魔大陸――レティアラ大陸から脱出する時に使用していたから覚えている。

 でもこれは大人数への効果の付与であり、その効果の元になっている魔法がなにかまではまだ分からない。


 ――腕組みして考える。


 俺の所作に気をつかってくれたのか、リズベッドもあえて答えは言わず、俺が答えを導き出すまで待ってくれるようだ。

 

 ――単純に物理攻撃への打たれ強さを向上させてんだよな。


 初期で習得する下位ピリアのタフネスのような感じでもあるんだろうけど、タフネスだけではあの刺突をくらえばダメージを受ける。

 だから下位のネイコスじゃなく、中位くらいだろう。

 弱体化した状態とはいえ、マナ――特に外部マナであるネイコスに関してはリズベッドはチートクラスだからな。

 実力からすれば、中位魔法でも上位並に防御力を上げることも可能なだけの力はまだまだ健在だろう。

 

 となれば、中位魔法で物理防御力を上げるとなると――、


「――ハイガードだな」


「正解です」


「よっし!」

 喜びのガッツポーズ。

 戦闘に身を置く者としては、相手がどんな能力を使用してくるのかも推測しないといけないからな。

 正解すると嬉しいもんだ。

 戦闘経験を知識として蓄えていることも出来ていたからこそ、ハイガードと答えることができた。

 破邪の獅子王牙副団長のガリオンが、この中位魔法で防御力を上げていたのを記憶していたから導き出せた答えだ。


「バタリオンからのハイガード。しかも術者がリズベッドとなれば、そら強烈な物理攻撃を受けてもあのくらいで済むわけだな」


「実戦として利器が使用されればまた話は違ってきますが」


「だよね」

 体を貫くのを防ぐとなると、別の魔法になるだろうからね。

 だが利器を使用しない打撃メインとなるであろう訓練下では、命を守るには十分な力。


「今回以外にも、演習には裏方として参加してくれてたりするの?」


「城下に出た時だけなので、協力はまだ数回程度です」

 治安のよい王都であっても、前魔王をおいそれと城下で活動させるのは流石にまずいよな。

 なにかあったら取り返しがつかないからな。

 同じような立ち位置の王様や首脳陣が土いじりをしている時点で、説得力はないけども……。

 

 協力してもらえれば負傷者が少なくてすむから、訓練も円滑に進めることができるので、可能ならもっと協力してくれると嬉しかったりもするけど、立場上むずかしいだろうな。

 当の本人は広い場所に出て息抜きが出来るからもっと協力はしたいそうだが、周囲の護衛する翁やガルム氏は安全な場所にいてほしいと強く思っているからか、リズベッドのその発言に対し、賛同するように首を縦に振るということはしなかった。

 

 治安が良くて、自分たちだけでなくS級さん四人による護衛もついているから万に一つ危険はないけども、それが分かっていても主を心配するのは忠義ある者達としては当然のこと。


「可能な時間まで城下で息抜きできるといいね。城の主だってゆっくりと過ごしているし。政務は娘のプリシュカに投げっぱなしとか言ってたくらいだからね」


「プリシュカ様のお仕事ぶりには感心いたします」

 ――……と、リズベッドが言う辺り、本当にプリシュカに任せっきりなんですね……王様……。

 投げっぱなしってのはちょっとした冗談で、政務自体はきちんとこなしていると思ってたけども……。

 土いじりは息抜きじゃなくガチなんだな……。

 ガチでプリシュカに政務を丸投げしてんだな……。

 

 これは後で先生と一緒に諫言を述べないといけないな。

 それでも聞き入れずに本腰入れての土いじりをやろうものなら、こちらも本腰を入れてベルに折檻してもらわないとな。

 加えてリンだな。

 この二人による指導があれば、政務にも力を入れることだろう。


「トール様」


「なんだい?」


「随分と力をつけられましたね。レティアラ大陸で出会った時よりも、マナの扱いが上達しているのが伝わってきます」


「有り難う」

 俺が知る存在の中でマナコントロール随一のリズベッド。

 そんな存在に上達したと言われれば嬉しいというもの。

 ピリアはともかくとして、ネイコスの方はまだまだだけども。

 中位はウインドスラッシュを習得したばかりだしな。

 大魔法はリズベッドの恩恵によるスプリームフォールだけ。

 

 自分自身で習得する道のりはまだまだ遠そうだ。

 でも中位はいけたからな。上位、最上位に大魔法。そしてその上の極位魔法――は無理だとしても、大魔法までは実力で発動できるようになりたい。

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