PHASE-1424【戦闘特化の体】
「魔法習得を求めるのでしたら、ご協力いたしますが?」
「してもらいたいのは山々だけど、自力で習得しないといけないのはリズベッドも分かってるでしょ」
「そうでしたね」
クスクスと笑いを零すリズベッド。
甘えてしまうと、それに甘えたことでスパルタからの折檻が待っているというのを理解してくれている。
「地道に実力で身につけていくよ」
「それでこそトール様。勇者として人々の範となる御方」
楽して近道なんてしていたら、積み重ねるという努力を失ってしまうからね。
ましてや今では俺も弟子を三人も持つ身。
師である俺が楽な近道なんて手段を選んではいけない。
その事をリズベッドにも伝えれば、弟子を持ったことにも祝いの言葉を述べてくれた。
「勇者としてだけではなく、師としても恥ずかしくないお立場で励んでください」
「頑張るよ」
胸を張って言葉を返せば、庇護欲をかき立ててくる微笑みで返してくれる。
「かわいい……」
と、左肩からポツリと零れる可愛い発言。
ミルモンもリズベッドの愛らしさに心を奪われたようだった。
相手が魔王というポジションでもあるから余計なのかもな。
小悪魔ミルモンにとって、リズベッドは崇拝対象になるかもしれない。
「師として励むとなれば、更なる高みを目指さないといけない」
ここで俺の側に立つガルム氏が口を開く。
「おっ!?」
口を開いた方へと顔を向けたと同時に、一歩後退りしそうになってしまう。
そんな体を気概で無理矢理に踏みとどまらせる。
赤銅色の毛並みを持つガルム氏。
その毛を些か逆立て、炯眼で俺を射てくる。
体に纏わせる殺気。
踏みとどまることは出来たけど、纏わせる殺気を思いっきりぶつけてこられていたら、後退りどころか一気に距離をとっていただろうな。
「纏った殺気を感じても下がらないか」
「いやいや、結構ギリギリですよ」
「ガルムさん?」
微笑みから一転して不安げな表情となるリズベッド。
対して――、
「申し訳ありませんリズベッド様。勇者がどれほどなのかと思いまして」
「なんだ! 兄ちゃんに対してケンカを売るつもりかい? だったら受けて立つよ!」
――……ミルモン。勝手に受けないように……。
「使い魔はそう言っているが、どうする?」
「力試しですか?」
「そう思ってくれていい。自分では役不足かな?」
「まさか」
魔大陸に入って最初にビビらされた人物が役不足とか。
こちらの最強さん二人も一目おいてる御仁。
「この王都で安息を得て英気を養えているとは先ほども言ったな。だがあまり安息の日々を送り続けると体も魂も鈍るからな」
「見た目からは鈍っているようには見えませんけどね」
レザーローブを着込んでいても分かる隆々でしなやかな筋肉。
人間では手に入れることが出来ないであろう亜人――ヴィルコラク特有の筋肉。
贅肉なんか一切無い、戦いに特化した筋肉。
安全な王都にいても守る対象であるリズベッドがいるからこそ、怠惰に過ごすことなく、日々、鍛練しているってのが分かるというもの。
「それで――こちらの挑戦を受けてくれるか。勇者?」
「俺は常に挑戦者という立場なんですけどね。でも、挑むというならいつ何時、誰の挑戦でも受けましょう!」
「それでこそ兄ちゃん! なんでアゴを強調させながら言うのかは分からないけど」
「勇者に挑めるとは光栄だよ」
「こちらこそヴィルコラクのリーダーと戦えることは誉れですよ」
ショゴスが君臨している魔大陸にて生活を続けていただけの胆力は、実力に裏打ちされたものだろうからな。
膂力、五感、敏捷性、持久力。
どれをとっても人間では到達できないものを標準仕様で有している種族――ヴィルコラク。
「マナ有りきですか?」
「もちろんだ」
人間はマナを使用してようやく亜人の力に近づくことが出来る。
まあ、目の前の存在はそのマナにも精通しているんだろうけども。
翁同様にリズベッドを護衛する立場だからな。翁が使用するんだからガルム氏もマナを多用するのは当然と考えないとな。
「すげえな」
「ん?」
単純な身体能力だけでもやばいのに、これに加えてマナだからな。
ついつい感嘆による素直な言葉が口から零れ出てしまった。
「では挑戦を受けてもらうぞ」
「いいでしょう」
「お二人とも、無理だけはしないでくださいね」
「それは無理だよリズベッド」
「その通りです」
心配する存在に二人してそう返す。
無理をしないと勝つ事が難しい相手なんだからな。
ありがたいのは、ガルム氏も俺と同様の考えを持ってくれているということ。
俺の事をちゃんと強者認定してくれているということが喜ばしい。
「立会人はこの老体が――と言いたいのですが、リズベッド様の護衛役が一人いなくなるなら、自分が残らなければなりませんな」
「役不足でしょうが、俺がやります!」
「おう、クラックリック」
模擬戦の立会人をしていたクラックリックが立候補してくる。
というか、いたのね。
――俺達のやり取りが気になっていたそうで、少し離れた位置から見続けていたそうな。
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