PHASE-1517【ワンド】
「それで、交渉ってのは?」
「人質の交換をしたいって内容さ」
「交換……だと……」
「そうだよ」
――…………。
「はぁ!? 人質の交換!?」
素っ頓狂な声を上げる中、俺の背筋に冷たいモノが走る。
俺の素っ頓狂な声を大きくて丸い耳をピクピクと動かしながら聞けば、
「そう、人質の交換だよ」
と、再度、言う時には悪い笑みを湛えるグレムリンのポームス。
あら、可愛い。ミルモン同様、悪そうに笑みを湛えても可愛いだけの存在でしかないね。
――……じゃない!
「虚言では?」
ピルグリムが怪しむ。
怪しみつつエルダーと一緒になって、グレムリンのポームスへと徐々に距離を詰めていく。
これにロマンドさんも足並みを揃える。
ポームスがスケルトンに囲まれるという状況。
アンデッドに包囲されたことが心底怖かったようで、ポームスを乗せているちびっ子ワイバーンにもポームスの感情が伝播したのか、クリクリお目々をちょっと潤ませながら力なく床に着地。
「な、なんだよう……。ボクは交渉役だぞ……。交渉役に力を振るうとかあり得ないぞ……」
「その通り! 荒事は避けるようにしてくださいよ」
「無論だ。武張った行動は取らんよ」
返してくるロマンドさん。
言うように一定の距離を取って囲むだけ。
「で、ラズヴァート。あの愛玩キャラは本当に
「真実だ。手荒にすれば
かなりのお気に入りってことなんだろうな。
「お気に入りなら単独で行動なんてさせるなよ」
「戦闘に発展はしているが、勇者側が蛮行はしないという最低限の信頼はまだ持っているということだな」
「そいつは有り難いね」
「それに、愛らしいのを目にすれば庇護欲に支配されるのがそっちにもいるようだからな。手荒なことにならないと分かっているんだろう。まあ、現状その存在はいないけども」
――ベルか……。
そっちにもって言う辺り、
うちの最強さんと
ここでポームスに手荒な対応をしたなら、
絶対に手出しはしないようにせねば!
「それで、交渉する気はあるのかい?」
「もちろんあるけども、証拠を見せてもらわないとな。ブラフなら交渉する意味もない」
「ふふん。そう言うと思ったよ!」
悪そうに笑うもやはり可愛いドヤ顔から、
「よっこらしょ」
ちびっ子ワイバーンが首にぶら下げている手提げ鞄を引っ張り上げ、中身を取り出してくる。
「うぅっぬぅ……」
取り出された代物を目にし、唸ってしまう。
「勇者よ。事実とみるべきだろうな」
「……ですね」
可能性としてはそうだよな。
俺達の面子で考えればそうだろう……。
――……ポームスが両手で持って見せるのは……、先端に貴石のはめ込まれたワンド……。
つまりは……、
「コクリコか……」
「どうするんだい?」
俺の声音に弱さを感じ取れば、ポームスは得意げに語気を強くする。
「いやしかし。にわかに信じられないな」
ロマンドさんが訝しむ。
「なにがだい?」
「あの少女には我らの同胞がついていた」
随伴はスケルトンルインが三。エルダー十。ピルグリム二。
生徒会長だけでなく、この部屋でのアドゥサルとの戦闘から見てもスケルトン達のレベルは高い。
ロマンドさんと同クラスのルインがコクリコには随伴しているんだから、容易く負けるということは考えられない。
考えられるとすれば、
「コクリコ達を相手にしたのは
「違うよ」
「違うのかよ……」
「単純に黄色と黒のローブの女の子が独断専行したことで簡単に倒されたんだよ。で、その子を盾にされて、後に続くスケルトン達は手も足も出なくなったんだ。感情を持たないアンデッドなのに仲間思いだよね」
――…………。
――……。
「あのお馬鹿!」
確かに通路での別れ際、強いアンデッド達を従えて走って行く姿は、強者を従えている自分に酔っていたものだった……。
調子にのって駆け出し、隊伍をまともに取ることもなく単独で先走った結果、対処が難しいであろう強敵と会敵。
ここでの戦闘がそうだったから、強敵=幹部と見ていいだろう。
幹部との戦闘でタイマンとなれば、即座に負けて囚われの身。
――……こういった流れになるのは簡単に想像できる……。
十中八九、俺がいま思い描いた通りの流れで捕まったんだろうな……。
「抵抗するかい? 人質はこちらの方が多いよ」
「てことは、コクリコに随伴した面々も無事と考えていいようだな」
「もちろん。もっともアンデッドに人質としての価値があるかどうかは分からないけどね。まあ、そっちのリアクションを見る限りでは十分に価値があるようだけど」
「生意気なぬいぐるみだ。貴公をこちらの質にしてもいいのだがな」
些かムキになるロマンドさん。
「な、なんだい? ボクという交渉人を人質にすれば、勇者一行の格も下がるし、人質も無事ではすまないよ!」
「ただ八つ当たりで言ってみただけだ。勇者の言うように荒事にはせん」
と、返していた。
「あんまり刺激はしないでいただきたいですね……」
「全くです」
俺に追従してエルダーも呆れ口調。
「じゃあ、こちらとの人質交渉には応じるんだね?」
「当然だろう。こっちは大事な仲間達を取られているんだからな」
「いい返答だね。勇者」
じゃあボクについてくるように。と、ちびっ子ワイバーンの手綱を引けば、クゥゥゥ――と、可愛らしい鳴き声にて飛翔。
交渉役であり案内役のゆっくりとした飛行移動。
その背を眺めながら俺達も続く。
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