PHASE-1516【新たな可愛い】

 言い合っているアンデッドとフェイレンから距離を取り、


「なんとか無事です。幹部を一人倒すことも出来ました」


『それは朗報だ。よくやった』

 ――強者からの称賛を受けて嬉しさから背中がむず痒くなる中、現状を説明。

 スカイフィッシュにより、ベル達と別行動している事を知れば、


『どおりでな』

 と、ゲッコーさんの声に気怠さが混ざる。


「どうしました?」


『カンディルにヒダのような羽がある生物が俺の所でも飛び回りだしてな。あれがスカイフィッシュか』


「そうそう、カンディルでしたね。カンなんちゃらってまでは出てたんですけどね」


『思い出せて何よりだ。こちらは天井裏を移動している時に出くわしてな。苦労した』


「もしかして敵に気付かれました?」


『それはないが、焦ったよ』

 流石だな。

 あの群れに出くわしても見つかることなく行動できるんだから。


『だとしても、蠢く群れが天井裏に展開された以上、俺の行動範囲も限定される』


「合流しますか?」


『そう提案しようとしていたところだ。やり取りが早くて助かる』


「ゲッコーさんの事ですからね。最低限の設置は――」


『言わなくても分かるだろう?』


「もちろんですよ」

 自信あふれる声からも、きっちりとこなしてくれているのは分かるってもんです。

 素晴らしき潜入ミッションの神様。


「合流するとなれば早い方がいいですね。プレイギアでここに直接、喚びましょうか?」

 以前も同じ手法で先生をエンドリュー候のお膝元であるドヌクトスに召喚したことがあるから問題はない。


『いや、一応は見て回りたい』

 と、東側は見て回ったけども、自分の目で西側も移動しながら見ておきたいとのこと。

 光学迷彩に加えて気配を消しての歩法も可能なゲッコーさん。

 天井裏の移動が出来なくなり、兵達が見回っている中を移動することになっても心配することはないね。

 出来る限り早く合流するという発言を耳にしてから連絡を終える。


「随分と長い独り言だったな」


「イマジナリーフレンドとの大事な話し合いさ」


「訳の分からないことばかりを言うヤツだよ」


「俺の心底にいる心の友との会話も大事ってことだ」

 ――…………。

 あれ? 冗談のつもりで言ったのに、もの凄く可哀想な人を見る目で俺の事を見てくるじゃないか……。

 うん……。ラズヴァートは――分かる。

 俺の通信機の存在を理解していないからね。

 でもなんでスケルトンのお三方まで俺を可哀想な人って感じで見てくるの。

 眼窩の灯る緑光が心なしか弱々しくなっているよ……。

 その淡い輝きは哀れみを表現してるよね……。


「冗談ですからね!」


「はっ!」

 嘲笑で返された……。

 俺の語気に必死さでもあったのか、言えば言うだけ可哀想なボッチと思われてしまっているようだ……。

 まあ、いいけど……。

 それで誤魔化せるならいいですけど……。

 

 ――くそ! 真のボッチであるラズヴァートに嘲笑されるのは腹立つ!


「よし! 行くぞ! 道案内しやがれぃ!」


「御免だね孤独野郎」


「ストームトルーパーで浮いているであろうお前には言われたくないっての! お前と違って俺には仲間が多いからな!」


「見渡せばアンデッドのスケルトンが三体。ハハッ! 立派なお友達だな。これなら一人の方がいいね」


「俺の仲間を笑うんじゃねえよ!」


「あいだっ!」

 バインド部分を思いっきり引っ張ってやれば尻餅をつく。


「勇者はアンデッドであれ対等に見てくれる。非常に好感の持てる男だ」

 ロマンドさんから嬉しそうな声が上がる。


「先生からは人誑しなんて言われますよ。そんなつもりはないんですけどね」


「無意識にそういった言動が出来るのは天賦の才よな。少しは手本とせよ。ひとりぼっちのフェイレンよ」


「うるせえよ金ピカ! あと、人質はもっと大事に扱えよな! クソ勇者!」


「全くだよね」


「お、新たなる声。次の相手か」


「まさか。ボクに君たちを相手取るほどの力があると思うかい?」


「――あら可愛い」

 ベルが見たら喜びそうなのが出てきたよ。

 水色と白色の毛に覆われたぬいぐるみたいなのが、小さなワイバーンのような生物に乗ってからの登場。

 背丈はミルモンとあまり変わらない500㎖ペットボトルサイズ。

 鼻が猫みたいに小さなコアラって感じの人語を喋る愛玩生物。

 クロウスを思わせる三つ揃えからなるスーツは派手な黄色。


「愛玩君。君の名は?」


「ボクはグレムリンのポームス。翼幻王ジズ様の私生活においての身の回りのお世話や、要塞の修復なんかを担当している者さ」


「丁寧に挨拶してもらって有り難う。俺は――」


「知っているよ。勇者トール」


「光栄だね」

 ここで翼幻王ジズの生活面での世話係が登場か。

 見た目の愛らしさ。

 翼幻王ジズはベルと似たタイプの性格かも知れないが、それはいい。

 私生活における世話係がここへとやって来たということは――、


「もしかして謁見が叶うのかな?」

 期待して述べれば、


「そんなわけないだろ」

 素っ気なく即断で否定される。


「じゃあ、何用か?」

 ロマンドさんの問いかけ。


「こ、交渉に来たのさ……」


「ほう、我に問いかけられただけで恐怖に呑まれそうなのが交渉役とはな。我々は低く見られているようだぞ。勇者」


「嫌なスケルトンだな! そんなふざけた口の利き方も直ぐさま押し黙らせてあげるけどね!」

 などと強気な感じで言い返してくるけども、声の震えは隠せていない。

 そんなところもベルからしたら可愛いポイントになるんだろうな。

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