PHASE-236【安心と信頼の.357マグナム】

 ギムロンが大活躍するなかで、俺の猿叫に驚いたクラックリックは、


「ですが、これだけ大声だと、奥にいる連中には気付かれたでしょうね」

 と、発言。


「ごめん……」

 恐怖に襲われて、一心不乱に攻撃してしまったからな……。

 情けなさと不甲斐なさから、素直に謝罪の言葉しか出ない。


「気にするない。どうせ洞窟入り口で見つかっとるからの。そもそもワシも大声なら出しとる」


「その通りです。余計な発言で会頭の心を煩わせてしまいました。そもそも自分が斥候担当であるのに、コボルトを見落とし、且つ、会頭を狙撃されたんですからね……」

 語末に進むにつれ、反省の言は仄暗い声を纏わせていく。

 ダガーやら松明でGを刺したり殴る動作を行いながらの反省はやめてほしい……。声音も相まって病んでる人にしか見えないから……。


「お許しを会頭!」

 いやだから……、許しを請いながら命を奪っていくなよ……。

 

 クラックリックは山賊と行動していた後ろめたさがあるんだろう。その分、必死になって挽回しようとしている。


 ギルド内でも冷ややかな視線を向けられてたからな。肩身が狭いのかもしれない。

 俺が所有するワールド・バトルタンクで、故意ではなく味方を誤ってFFフレンドリーファイアで破壊してしまい、青ネームになった人が次戦から躍起になって、皆の為に頑張ろうとしているのに似ているな。


「いや、俺が不甲斐ないのが悪いんだ。クラックリックは気にするな」

 そして、ヘマして青ネームになった人達は、気にしないでゲームを楽しんでいただきたい。

 こんな事をこんな最中に考えられる俺は、なんだかんだで落ち着いているのだろうか?

 

 ガサガサ――――。


「はぁ!?」

 あかん……。単純に現実から逃避したいだけだ……。

 怖いよG……。


「ふん!」

 接近するGをクラックリックのダガーが仕留めてくれる。


「会頭の優しさに心より感謝します!」


「おう」


「忠誠こそが我が矜持です!」

 だからそれはやめろ! 怒られるキーワードに似ているから!


「これだけ皆して大声を出せば……」

 呆れるように言うのは、この中で一番、位階が低いタチアナである。

 正論だから、なんも言えない野郎たち。


「ま、まあこの先にいるパーティーの内の一人が、乱痴気騒ぎを起こしているだろうから、誰も気にしなくていい」

 先発の中にはまな板フラッパーであるコクリコがいる。

 あいつが戦闘を行えば、間違いなくこの場の状況より騒がしいものになっているに違いないからな。


「会頭の言は正しかろう。現にダイヒレンが群れをなしてこの辺りにいるのがいい証拠よ」

 洞窟の専門家であるドワーフが説明してくれる。

 

 ――――ダイヒレンなるでっかいGは、本来は臆病な生き物らしく、洞窟最奥部を巣としているらしい。

 しなりのある頑丈な触角は、発達した察知能力を司るもので、別の生き物を感知して逃げ出すためのものだそうだ。

 

 最奥部で大きな騒ぎが起こっているから、洞窟の入り口付近まで逃げてきていると推測。

  

 で、入り口から俺たちが侵入したことで、ダイヒレンからしたら、闖入者たちにより挟み撃ちに遭っている状況に陥っているわけだ。

 窮鼠猫を噛むってわけじゃないが、自己防衛と元来の悪食さから凶暴化しているということだ。


 ちょっと前にギムロンが会敵が早いと発していたが、予想ではもう少し先で会敵と踏んでいたらしい。

 強大な何かが奥で暴れているから入り口近くまで逃げてきて、更に俺たちとの会敵で興奮して、攻撃性が高くなっているとのこと。

 

 攻撃を受けてもなお逃げずに挑んでくるのがその証拠だそうだ。

 凶暴化していても、本来は攻撃を受ければ逃げるそうだが、それがないということは、最奥部ではよほど派手な戦いが行われていると考えられるそうだ。


 まあ、わからんではない。コクリコがいるからな……。

 

 闖入した側だから申し訳ないとも思っているが、いかんせん、ダイヒレンの外見がね……。

 俺の本能が、恐怖に支配されながらも掃討しろと告げてくるんだよね。


「大声だしてるわけだし、でかい音をだしても問題ないよな」


「問題ないわい。使うんかい?」


「おうよ!」

 取り出したるはお馴染みのマテバ。

 殺虫剤がない以上、こいつが俺にとっての遠距離武器だ。


 ホルスターから丁寧に抜いて、狙いを定めて撃鉄を起こして、しっかりと構える。

 

 丁寧な所作を覚えておかないと、ゲッコーさんに映画の見過ぎだ。とか、アニメじゃない。と、怒られるからな。

 正しい所作で覚える事こそ、不測の事態の時にも確実に対応できる。

 それらを体にしっかりと感覚として染みこませる為には、やはり実戦あるのみだ。

 

 迫るGに背筋が寒くなるが、冷静にグリップを握る。

 握る右手は前に出すイメージ。

 添える左手は、自分の方に引っ張るイメージ。

 これでしっかりと固定し、脇を締め、サイトで標的を捕捉してから、ハンマーを起こしてシングルアクションの状態にし、ここでようやくトリガーに指をかけて――――ズドン!


「ピギィ!?」

 ランタンに照らされた黒光りの頭部に命中。

 素早く動く相手に対して、ヘッド一発は上達の証拠だな。


 ダイヒレンは即座に動かなくなる。流石は.357マグナム弾である。ストッピングパワーは素晴らしいの一言。

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