PHASE-235【金鳥は商標であり社名ではありません。社名は大日本除虫菊です】

「これ駄目だ……。俺が駄目なタイプのモンスターだ……」

 俺が恐怖しているのを本能で察知したのか、Gはガチガチと歯を鳴らして俺に向かってくる。

 身構えるが、直ぐにGは動かなくなる。

 後方より手斧がGの頭部に打ち込まれたからだ。


「頭を潰しゃあいいんだ。というか、頭だけを狙え」

 ギムロン。そうじゃないんだ……。

 潰すとかの問題じゃあないんだ。

 俺のようなギヤマンハートには無理な存在なんだよコイツは……。こんなのを相手にするなら、湿地にいた巨大ワームの方がまだいい……。


「大至急、殺虫剤を用意してくれ。Gに定評のある、鶏さんマークの金の鳥の殺虫剤をプリーズ!」


「金の鳥ってのは? 伝説の幻獣かい?」

 そういうのじゃなくて殺虫剤はない……の…………、


「……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「なんでえ!? 急に叫ぶなや!」

 ギムロンの後方から、ランタンに照らされるのはG最強形態!


 最強形態――――すなわち飛翔してからの、なぜかこっちの方に突っ込んでくるってやつだ。

 俺の自宅にいるのとちがって、デカいのが飛翔してくると、恐怖を通り越して絶望の使者にしか見えない。


 これまじで無理ぃぃぃぃぃぃぃ!


「会頭!」

 飛んで接近してくるGに対して、ゲシリと手にしたスタッフで叩き落としてくれる。

 震えながらも俺の為に撃退してくれるタチアナ。


「ありがどう゛!」

 心の底からの感謝の声は、恐怖と緊張から濁ったものだった。


「ひっ!?」

 撃退に成功したが、直ぐさまタチアナの顔が引きつる。

 原因は迎撃したGが仰向け状態だからだ。足の節が蠢く姿にタチアナは短い悲鳴だったが、俺は…………、


「ひぃぃぃぃっ――――」

 と、長い悲鳴である。

 六本の足。そして節が稼働する姿は恐怖そのもの。さっきも目にしたがこれは慣れないし、慣れたくもない。


「何しとる。はようとどめを!」

 ギムロンの怒号にも似た大声にはたとなる俺。

 流石に迎撃までしてもらって、ここでとどめもタチアナに任せるのは男として恰好が悪い。

 異世界Gに対する恐怖より、男としての使命感が勝ろうとする中で、


「突き刺せ!」

 と、ギムロンの声に背中を押されるようにして、


「キェェェェェェェ――!」

 恐怖を振り払うように猿叫を発して、未だ白い粘液で濡れるミスリルのショートソードの切っ先を頭部に定めて飛びかかる。


 マウントを取られまいと、ガチガチと歯を鳴らしてじたばたと動くG。

 動かす足には無数のトゲがついていて、触れると痛みを覚えるが、それに耐えつつ切っ先を頭部へと突き立てた。

 まずは一突き。


「ピュギィィィィ……」

 断末魔を上げるGに対して、


「キェェェェェ! チェェェェェェ――!」

 と叫びながら、俺はピクピクと動き続けるGに対して、動かなくなるまで剣を頭部に突き刺していった……。

 灯りによって壁面に映る俺の影法師だけを見れば、俺は猟奇殺人を実行しているサイコパスな犯人だ。


「……はぁ、はぁ…………」

 火龍と対峙した時にも感じなかった強い疲労感に襲われながら、なんとか一匹を仕留める事が出来た……。

 駆け出し冒険者が相手にするモンスターなんだけどな……。

 一匹でこの神経のすり減りようたるや……。ハンパないって!


「なんともデカい声じゃ。ワシよりもデカい声とはそうは出会えんぞ!」

 声の張り合いを競っているわけじゃないぞ俺は……。負けじと咆哮と共に、手斧でGの頭部を潰していくギムロン。

 

 そう、ギムロンの得物は手斧だ……。正直リーチはショートソードより無い。なのでギムロンの体には白い粘液が付着していて、自慢の髭にもべっとりな姿がランタンによって照らされる……。

 見てるだけで俺は吐きそうになってしまうよ……。


 だが反面。こんな強敵を次から次へと屠っていく姿に鬼神を見る。

 

 駆け出しが倒す雑魚モンスターなんだけども、俺にとっては、今までに出会った敵性の中で最強クラスだからね。本当に頼れるドワーフ様だ。

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