PHASE-234【SAN値をダイレクトアタックしてくる敵】
「よし一匹。他愛ないわい。そっちいったぞ」
「ふん」
続くクラックリックがダガーで突くのではなく、叩くように斬る。手斧同様に粘度のある水気の音がした。
二人の手にする利器が、クラックリックの持つ松明に照らされると、刃には白い粘液がべっとりと付着している。
「これならダガーより棍棒みたいな打撃特化がよかったかもな」
「だったら松明でたたけばいいだろう」
「火が消える」
「じゃな。ダガーで頑張れい。こっちは斧だからな。斧はいいぞ~」
余裕ある会話を交わしつつ、二人は上下運動を繰り返す。
繰り返す度に、水気のある音。
しかし、この二人のモーションにはやはり見覚えもあれば、経験もある。
このまま任せても問題ないという安心感がある。
というか、任せたいんだよな。
未だ見えない存在に対して、俺の背中は悪寒が走り続けている……。
いつの間にか俺は、タチアナと同じ位置まで下がっていた。思考が体を知らず知らず後ろに下がらせていたようだ。
「ハハッ! 大量じゃて」
嬉々として振り上げる手斧は、白い粘液が糸を引いている状態。興奮しながらギムロンがまた一匹を仕留める。
猟奇的にも見える。
「おう? 会頭、そっちに行ったぞ」
「へ?」
来た……だと?
後陣に行かせたとしても問題は無いとばかりに、ギムロンは肩越しから一瞥するだけで、直ぐに正面を向き、手斧を振り下ろす事だけに集中する。
恐る恐る俺は接近してくるガサガサ音を確認するように、ランタンを持つ手を前に出す。
――……なるほど、捕捉しにくいわけだ。
ガサガサと音を発して、岩肌の地面だけでなく、壁面や天井を縦横無尽に高速で移動しているんだから。
俺へと接近してくる存在がランタンに照らされる。不気味を伝えてくる黒光りだ……。
中型犬くらいはありそうな……、
「G!?」
馬鹿でかいG!!!!
「ピィギィィィィィィィィ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
甲高い鳴き声に同調するように俺が悲鳴を上げる。
完全に俺を捕捉しているようで、壁から天井へと駆けるGは、そこから俺に躍りかかってくる。
なるほど得心がいった。
前衛の二人のモーションは、夏場に新聞紙を巻いて、ハシビロコウのように不動で構える俺の姿そのものだったわけだ。
獲物を確実に叩く勇気も無く、ただGが過ぎ去っていくまで不動なだけの俺。
小さいGに対しても豆腐メンタルでギヤマンハートの俺は、ヘタレな存在だったのに……。
異世界のは大きさが違いすぎるんだよ! 恐怖は小さいのの比じゃねえ!
「やめろ! 昆虫特有の蛇腹みたいな腹部を見せてくるな! しかも黒光りで!」
気持ち悪い。長い触手にテカテカボディ! こんなファンタジーは受け入れたくない!
「ひゃい!」
情けないかけ声で迫るGを突き刺す。
ミスリルの切っ先が貫く感覚と、こちらに向かって重みが接近してくる感覚。
戦いの最中であるのに、俺は目を強く閉じてしまっていた。
剣身から伝わってくる感覚だけで現状を把握しているダメダメな俺。
こんな姿をベルに見られてしまえば、【戦闘中に目を閉じるなど死にたいのか!】って、蹴りが間違いなく見舞われるだろう。
「ピュギィィィィィィィ!」
けたたましい鳴き声にやおら目を開けば……、
「……ぎぃやぁぁぁぁぁあ! エイリアン!?」
ミスリルのショートソードが刺さったまま、暴れるGの口の中にはもう一つ口があり、クワガタの顎のような作りの口が、ガチンガチンと音を立てて俺に噛みついてこようとしている。
なんて貪欲さだ。刺されてもなお標的に食らいつこうとするなんて……。
姿もそうなら、生命力もGそのもの。
悪魔を体現したような存在を突き刺したままの姿勢から、
「ひゃい!」
さっきから情けない声ばかりを上げているが、情けない声に合わせて剣を振り上げてから素早く振り下ろし、Gを地面に叩き付ける。
――……ガサガサ、
「やはりしつこい」
剣身から解放されれば、仰向けで六本の足をジタバタとさせる。この動きだけでも俺は恐怖状態に陥ってしまう。
生命力も外見同様で逞しい。大型Gは仰向けから起き上がれば、再起動。
美しかったミスリルに申し訳がないと思えるほど、白い粘液が剣身全体を汚している。
とんでもない強敵と出くわしてしまった……。
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