PHASE-233【構えに、胸騒ぎを感じざるを得ません】
「元々コボルトは町に住んでたわけだから、本来の洞窟の脅威ってわけじゃないよね? となると、駆け出しがこの洞窟で挑むモンスターとか亜人がいたりするわけだよな?」
「もちろん。ここはダイヒレンが生息しています」
なにその格好いい名前。俺の中二心の琴線に触れてくるよ。
「ひっ!」
俺とは違い、後方にいるタチアナはダイヒレンの名前を聞いて身震いだ。
「なんだ? おっかないのか?」
そんなのはノーサンキューだよ。
タチアナは声も出さずに、頭だけを激しく上下に振って返してくる。
駆け出しの存在には強敵のようだ。
「ま、雑魚だからそこまでしゃっちょこばらなくていい」
掌に手斧の柄をポンポンと当てながらのギムロンは余裕の発言。
「メンバー全員がしっかりと見えるように、灯りは行き渡らせとけよ」
と、継ぐ。
灯りと灯りが重なるより、左右にちゃんと展開して、メンバーと進行ルート全体を照らせとのことだ。
手斧を直ぐさま構えられるような体勢と、洞窟内を明るく照らすように。という発言からして、ここからは臨戦態勢って事だろう。
「なんか気配でも感じるのか?」
構えるギムロンに問うてみれば、
「おう。噂をすれば――だ。予想より早いが来るぞ」
「ふぇ……」
またも俺の後方から弱々しい声を漏らすタチアナ。
ダイヒレン。相当に苦手な存在のようだ。
予想より早いってのが引っかかるが、備えなければいけない。
警戒するようにクラックリックが松明を前へと出し、ダガーを構える。
ドワーフとハンターの一歩後方で、俺もミスリルのショートソードを構える。
本来はクラックリックと俺の位置は逆なんだが、洞窟戦の経験が無いことから、後衛であるタチアナの守りにつく。
片手剣は普段、使用しないから違和感があるな。
数回、上から下に振って感覚を掴む。
振って分かるのは、流石はファンタジー代表の鉱物から作られた剣。
鋼や鉄製に比べて圧倒的に軽かった。
人間の子供サイズくらいしかないゴブリン達の亡骸から利器を回収した事もあったが、あいつらが佩剣していたものより軽い。
これで鋼鉄製の刀剣より強度と切れ味がいいって事なんだろうからな。流石はミスリルということか。
「会頭、振っとらんで構えとけい」
「おうよ!」
持ち主の言に従い、構えも真似して、腰を落として右腕だけでの上段の構えだ。
構えがすんだその時だった――。
――ガサガサ――――。
「音がした」
前方より音が確かにした。
真っ先に感じたことは、その音が嫌だと思ったことだ。
俺のDNAに組み込まれているのか、ガサガサ音は不快そのもの。
続けてガサガサが耳朶に届けば、ぶるりと体を震わせてしまう。
――……何なんだ……、この得も言われぬ不安感は……?
「来ます!」
「もちろんコボルトじゃないよな?」
警戒を発したクラックリックに問う。
ダイヒレンだというのは分かっているが、心底ではコボルトであってほしいと思っている俺がいる。
見たこともないダイヒレンを俺は拒絶している。
音はしても、ランタンや松明の光源ではまだ存在を確認出来ない。
「無論、コボルトではないです」
返ってきた発言を受けてからタチアナの方を振り向けば、白樺のスタッフに体重を預けるかのように、両手でしっかりと持って震えている。
「ハンターの。いくぞい」
「おお!」
手にした松明を前面に出し、ダガーにて上段の構え。腰を落とした姿勢。
皆して同じ構えだ。
――……他人のを見て思ったことは、あの構え方には見覚えがある。
もちろん自分も同様の構えなんだから見覚えがあるのは当然なんだが……。
俺の上段の構えとは些か違い、二人のは左手を前に出し、視線下方、四十五度凝視だ。
右手に持った得物をいつでも地面に振り下ろせるといった感じなのが見て取れる。
あの姿勢……。見覚えがあるというか、経験があるというか……。
経験といっても、剣道での経験ではない。
夏場の自宅でのような……。
「来たぞ! どっせい!」
暗がりでもしっかりと見通すことの出来るドワーフであるギムロンが、誰よりも前に出て、パーティー第一号の攻撃を叩き込む。
やはりというべきか、地面に向かって手斧を打ち込んだ。
暗がりでよく見えないが、刃が岩肌の地面に当たった音はない。
代わりに、ドスッとした鈍い音――。
遅れて、ビチャリと粘度のある水気を帯びた音が耳朶に届いた。
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