PHASE-1633【素手で分からせてやろう】

 ――そう、素人なんだよな。


「お前、口ばっかりで命を奪った経験はないだろ? まあ、それはいいと思う。命を奪うとかろくな事じゃないからな。なのでさっさと冒険者なんてやめて、普通の仕事に就いた方がいいと思うぞ」


「長々とうるせえんだよ! 一気に畳み掛けるぞ!」

 後退していた体を無理矢理に踏みとどめ、側に配置していた残り少なくなった取り巻き三人の内の一人の尻を蹴り上げる。

 嫌々ながらも蹴られた勢いで俺の方へと駆け出し、残りの二人もそれに続く。


「どうしようもないアホどもだよ」

 一気に詰めてからの、


「パンチ、パンチからのキックと見せかけてのパンチ」

 軽い口調で軽くない拳をブリオレの取り巻き三人に放ってやり地面に転がす。


「こんなガキに!」

 高々と掲げる蛤刃。


「ぶっ殺す!」

 怒号からの振り下ろし。


「よいしょ」

 振り下ろされる手首を掴み、捻って投げる。

 巨体が一回転してから、


「ぐがぁ!?」

 背中から叩き付けてやれば短く苦しむ声。


「どうしたよ。今回は一撃で白目剥かさないように手加減したぞ。これでも実力差は分からないか?」


「な、なめんな゛」


「呼吸も整っていないのに喋るとしんどいぞ」

 怒りのままに立ち上がってくる。

 本来なら掴んだ手首をそのまま極めるんだけどな。

 デカい図体に対して振り下ろしを受けてからの投げ。

 初期の頃のホブゴブリンのバロルド戦を思い出す。

 いま相手にしてる相手と比べればバロルドに失礼だけど。


「弱いぞゴールドポンドの上澄み」


「なめやがって! 大体テメーが強いのはその装備が原因だ! クアントが言ってたとおりなんだよ! 拳打の威力はソレのお陰だろうが。それが無けりゃタダのガキだ!」


「言葉だけは強気だな。発する言の葉と実力が釣り合っていない事にもいい加減――気づこうな」


「装備有りきのヤツが生意気なんだよ!」

 手斧を手にしてなに言ってんだよ……。

 装備と装備という観点からすれば対等だろうに。

 まあ、火龍装備ってなれば対等とは言えないか。

 

 ふむん――、


「そうだな。これ以上、勘違いをさせるのもお前のためにならないからな。拳打じゃなく投げられても装備が原因とか言うお前を完全に分からせないとな」

 言いながら籠手の固定部分を外していく。


「なんだ?」


「なんだ? じゃねえよ。お前が装備が原因って言うからな。いかんともしがたい実力差は、装備が関係していないってことを正真正銘の素手で分からせてやるんだ。感謝しろ」


「ドブカスが! テメーを殺してテメーの死体の前でアップを犯しながら感謝してやる! 最高の女の体を有り難うってな!」

 だから凄味が伝わってこないんだよ――本気で命を奪うっていう凄味が。

 発言自体は非常に下品で不愉快だけども!

 

 おもちゃ売り場の子供のような地団駄で斧を振り回してくるので離れてやる。


「今度こそ俺のこの斧でテメーの頭をかち割ってやる!」


「もういいって。出来ない事を言うな」

 作り笑いと肩を竦めた姿で返せば、


「がぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 言葉にもならない咆哮にて突っ込んでくる。


「殺意をわずかに感じ取ることが出来る叫びだな」

 これだけ挑発をすれば当然でもあるか。


 当然ではあるが、


「脅威はまったく感じない。もう一度、実力差による一撃を受けてもらうから。一度目は偶然と思ってくれてもいいけど。二度目は現実として噛みしめるように」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「おっと!」


「なんだ! 偉そうなこと言って後退か!」


「いや、渾身の大振りを容易に躱されたことにまずはショックを受けような」


「死ぬまで打ち込んでやらぁ!」

 諦めない気持ちは大事だな。

 それでも生ぬるい事しかこなしてこなかったヤツがどんだけ頑張っても、


「俺には届かないから」


「取った!」


「取れてねえよ」

 袈裟斬りの軌道による大振り。

 身をしゃがませてから躱せば、頭上を風切り音が通過。

 並の連中ならその音を耳にして居竦んでしまうだろうけども、とんでもない連中ばかりを相手にしてきた今の俺からすれば、コイツ程度の風切り音は最早――そよ風の如し。

 

 しゃがんだ姿勢を利用し、勢いをつけながら立ち上がる。

 足裏から膝、腰と力を伝わせるイメージをしながらの、


俺っていいよねアイ・アム・レジェンド

 ギルドハウスで見舞ってやった【隠忍自重からの解放の拳打フライアウェイ】同様、顎へと叩き込んでやる。

 現実を噛みしめさせるために、ギルドハウスでの一撃よりもキツいのを下方から打ち上げる。


 市中での狼藉と不愉快な発言もだが、何よりも自分の現在の実力を――、


「しっかりと把握しろ!」

 ――言ったところで反応は返ってこない。

 ダメージを受けた時のうめき声ってのもない。

 巨躯が宙を舞うだけ。

 続いて重々しい音が一つ周辺に響けば、本日二度目となる白目の姿。

 

 巨体が倒れた事で静寂が訪れたがそれも束の間。直ぐに大歓声へと変わる。

 

 オーディエンスが手にするタンカードやグラスを俺へと向け、勝利の祝杯とばかりに勢いよく中身を飲んでいく。


 で、


「よし! 全員が全員、地面に転がったな」

 俺、ベル、ガリオン、ジージー。

 お馬鹿さんたち全員を折檻完了。


「ひょお! 大したもんだ。強さの次元が違う。こんなにも強い連中、俺っち初めて見たぞ」

 レギラスロウ氏が手を出してくるのでタッチで返す。


「コイツ等も今回の事で少しは大人しくなって、性根を鍛え直してくれればいいんだけどな」


「どうでしょうね。上が変わらないとコイツ等も変わるのは難しいでしょう」


「ギルドマスターは話が通じるヤツなんだけどな……」

 最近は護衛クエストで楽に稼げるようになってしまい堕落しているそうだ。

 今回の件で上も気を引き締め直してほしいとレギラスロウ氏。

 

 見る目のあるドワーフがそう言うなら、ギルドマスターが気持ちを改めると信じてもいいかもな。

 面識はないし、今後、出会うかは分からんが、このギルドが変わりそうにないなら、そいつにも【俺っていいよねアイ・アム・レジェンド】を叩き込んであげよう。

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