PHASE-1080【どっちもどっち】
「不遜な発言になるが――人間達はよかったかもしれんの」
「何が?」
「魔王軍によって攻められたことがじゃ」
「よくはないだろう」
「じゃから先に不遜と言ったんじゃ」
多くの犠牲者が出たことに対する冒涜にはなるが、人間の住む土地は魔王軍により大きな被害が出た。
だがそれによって現在、人間達は同じ方向を見るようになっている。
「もちろん会頭たちの活躍が大きいじゃろうが、王や貴族達が人々の手本となるために前線に立つ気概があるからの。そういった行動が人々を一つに纏めていくわけだしの」
この国は力を持った者達が足並みを揃えきれていないのも事実。
王土だけでなく、他の領主達も協力をする人類からすれば、エルフ達は現在の危機的な状況に対し、行動や思考が鈍い。
旧態依然のやり方で今までは問題なかった事と、権力を有する者たちが長命故に次代へと変わる事がなく、いつまでもその地位にふんぞり返っているのが一番の問題なんだろう。
そう考えると、
「今回の戴冠式はやはり大事だよな」
「じゃな。もしかすると今の状況に変化を与えるために、エルフの現王であるエリンダルク王は、次ぎに王冠を譲ろうとしとるのかもな」
「ギムロンの予想は当たってるだろうな」
「そうなれば、私達も本当の自由を得ることが出来るでしょうか」
服が汚れないようにと、ルミナングスさんから貰ったフード付きのローブを纏う二人。
そのフードから覗かせる寂しげなルマリアさんの言葉に対して、きっとそうなります。と、断言できないのは、この国における根深い部分を完全に見る事の出来ていない外の人間だからだろうな。
なってほしいとは思う。
だってこの二人はわざわざ不自由である集落の方が自由であるという理由から戻りたいと言うのだから。
ルミナングスさんは自分の屋敷で働けばいいと言ってくれたが、それを断ってまで集落に戻りたいほど、ハイエルフ達がいる中央はダークエルフの二人にとっては息苦しくてたまらないんだろう――――。
「もうすぐですよ」
先頭を進むサルタナの足取りは意気揚々。
師である俺を案内して歩けるのが嬉しいようだ。
勇者と冒険をしているという感覚があるという。だからなのか、時折、腰に佩く木剣を手にして振ってたりする。
ギムロンよりも年上の二百四十歳だが、行動は見た目通り子供である。
仮想敵との戦いに興じる剣の振りなのだが、
「まだまだ振りに無駄が多いな」
「はい!」
元気に返事が出来るのはいい事だ。
――――。
「ふぃぃ……。ふぃぃぃぃぃい……」
「ギムロンうるさいですよ」
背中に届くギムロンの息切れに、コクリコは肩越しに渋面を向けていた。
「も、もうすぐと言った……じゃろうが。前回より遠くないか?」
それはギムロンが前回は戦闘態勢となって行動してたからだろうな。
オンとオフがきっちりとしているギムロンにとって、現状はオフの状態だからか動きに洗練さがなかった。
つまり現状は俺達にとって脅威がないってことなんだろうけど。
「ああもう! この隆起した地面と下生えは面倒くさいの!」
「とても大地と親友であるドワーフの発言ではないですね」
「ワシは酒と鉱物が無二の親友であって、自然とはそこまで仲良くないからの」
コクリコに返しつつ、背中のバトルアックスを手にして今にもパドリングをしそうである。
無二の親友とか言ってるけど、酒と鉱物と言ってる時点で無二じゃないけどな。
といったツッコミはせず、無闇矢鱈に自然を傷つけてはいけないと注意する。
「ルマリアさんとアルテリミーヤさんは大丈夫ですか?」
問えば樹上移動でも構わないですと返すくらい余裕がある。そんな二人にギムロンはその移動に大反対。
美人二人が苦笑いで返し、下生えをかき分けて更に一時間ほど歩く。
樹上移動なら間違いなくもっと早く到着したんだろうけども、やっとこさダークエルフさん達の集落付近まで到着。
不安定な大地を長い時間歩いたけど、ギムロンと違って息切れをすることはなかった。
地力が向上している事に俺は嬉しくなる。
前回は集落には入れなかったけども、今回は入れそうだな。
その証拠に、
「勇者様」
「どうも」
樹上からエルフさんが降りて挨拶をしてくれる。
ルミナングスさんの部下の方が今回は集落の見張りをしてくれているそうで、それが分かれば安心もする。
前回みたいな事はないだろうからな。
わざわざ木から下りて挨拶ってのも手間とらせたけど、俺を見下ろして挨拶は出来ないという礼節と生真面目さ。
流石はルミナングスさんの部下といったところだろう。
――生真面目さんに別れを告げて進んで行けば、
「むぅ」
後方からギムロンが唸る。
先ほどまでと違ってスイッチがオンになったようだ。
それに気付かないサルタナの足を止めさせ、俺の側に来るように伝えれば、何かあると判断したのか手にした木剣を構える。
「またお前たちか」
怒りの声を纏わせたのは先日も耳にした。
音も無く着地すれば、手にした棍棒をこちらへと向けてくる。
「サルタナ。お前もここには近づくなと言っているだろう!」
怒号にビクリと体を震わせて、エルフとしては短い耳をしな垂れさせる。
「まあそう熱くならずに」
笑顔で近づけば、囲むように数人のダークエルフさん達が地面へと着地。
ぎらついた紫色の瞳は俺に注がれる。
グリップエンドから先端まで長さにして約四十㎝ほどの、逆テーパーからなる棍棒を視線と共に俺へと向けてくる。
「勇者! あまり他国のいざこざに介入しない方がいいんじゃないか」
「荒む理由は理解しているけど、荒みすぎて視野が狭くなってないか? そんな狭い視野で棍棒を振るったとしても俺には当たらないぞ」
「試してみるか余所者! お前はエルフではないからな。痛めつけても問題ないだろう」
「短絡的だな。俺はこの国では恩人という立場だからな。それこそお宅らが畏怖している対象が大勢でここに来るかもよ」
「勇者が脅し文句とは」
「脅しではなくて本当の事を言ってるんだよ。そうならないためにも穏便に――」
「黙れ!」
困ったな。人の話が聞けないタイプだよ。
それだけ強い恨みってのをこの国の中央に抱いているんだろうけどさ。
でも人の話はちゃんと聞かないと無駄な争いに発展するって事もちゃんと理解しないと、いつまで経っても歩み寄ることは出来ないぞ。
まったく。中央に集落サイド――どっちもどっちだな。
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