PHASE-1077【種族は違えど小者に違いはない】

「こわやこわや。会頭の怒りに触れればこの国は一夜にしてなくなりそうだわい」


「やだなギムロン。それには語弊があるぞ。このくらいの規模の国なら一夜もいらないよ。半刻あれば十分だ」


「おお、こわやこわや……」

 体を縮込めて両腕をさするギムロン。


「ああ――トマホークを無限に撃ちたいよ。Rトリガーを引く右の食指がウズウズするぜ。なあ菊池!」


「だから菊池って誰だよ」

 素敵な生真面目砲雷長とだけゲッコーさんに返しておく。

 当然ながら首を傾げてくるけどね。


「ちょっとトール……止めてよね……」

 シャルナの声は先ほどまでと違って弱々しい。

 今回のは怒気というより恐れといった感じ。

 俺が勘違い発言をすれば、いつもならベルやゲッコーさんが俺の背後に立ったりしてプレッシャーを与えてくるけども、そんな仕草もないからシャルナは不安になったようだ。

 ブレーキ役の二人が俺に賛同していると思ったんだろうな。

 それが原因で恐れを抱いているんだろう。

 

「さて――お二人。本当に自由にしてください。俺は元主と違って自由を謳歌させたいので」


「ええと……」

 焦りが更に強くなっているようで、目が激しく泳いでいる。

 そんな一人がトレーを落とした一人を見てどうしようかと考えているようだが、


「で、では、ご厚意に甘えさせていただきます」


「どうぞどうぞ」

 トレーを落とした一人が声に震えを混じらせつつ深々と一礼。

 俺の許可をもらえば、二入してルミナングスさんの使用人に誘導されて退室。

 ――ほどなくして、二人が外の空気を吸いたいということから屋敷より出たと、誘導してくれた使用人さんから連絡が入る。


「さて――」


「さてじゃないわよ。トールのさっきの言い様はなに?」

 シャルナは全体を見渡しながら言いつつも、掩護がないことで長い耳は弱々しく下を向く。


「茶番に決まっているでしょう」

 モシモシとずっと肉を口に運んでいるコクリコがここで発する。


「シャルナも理解しているでしょうが、トールが本気で発言しているのなら、我らが風紀委員長であるベルが黙っていませんよ。そのベルがトールの話に乗っかっている時点で茶番です。私も人のことは言えませんが、シャルナは些か感情に左右されすぎです」

 継ぎながら骨についた肉をしっかりと歯で刮ぎ落として咀嚼すれば、満足したコクリコの姉御は残った骨を皿へと放り投げる。


「まったく情けない。コクリコ殿のような若者に諭されるとは」


「うう……」

 長嘆息のルミナングスさん。

 発言を受けてシャルナの耳は更に弱々しく垂れ下がる。


「じゃあさっきのはお芝居?」


「即興だったがの」

 髭をしごくギムロンはかかと笑う。


「いや~皆ナイスだったよ。よく合わせてくれました」


「なんだ……また私だけが理解できてなかったのか……」


「いや問題ないぞシャルナ。こういった時は知らないのが一人いて反論した方が芝居にも厚みがでる。リアリティが生まれるからな」

 と、シャルナをフォローしてあげるゲッコーさん。

 それ俺が言いたかった。


「ゲッコーさんの言うとおりだ。今ごろ退室して外の空気を吸いたいと言ったダークエルフの二人は、俺の性格や力をポルパロングに伝えに行っていることだろう」


「じゃあなに。あのダークエルフ達はポルパロングの回し者だったの!」

 キノコ椅子を蹴倒す勢いで立ち上がるシャルナに、ルミナングスさんはお前はちゃんとシッタージュ殿と言いなさいと注意をするが、ダークエルフをああやって自分の慰み者にしているような輩に殿なんて必要ないと返しつつ、俺の返事を待っているので、


「まあ何となくだったけどな。ああいった手合いがお気に入りを簡単に手放すって事はしないだろうからな。俺を色事で自分の味方に引き込み、こちらの情報を色々と聞き出したかったんだろう」


「各氏族の裏方を担当するわけだからな。情報こそが最も価値があると思う手合いだ。反面、情報に左右されやすいというのも弱点だな。特にああいった小者だとな」

 悪そうに笑みを浮かべれば、ハリウッディアンなお髭も連動。


「シャルナの自然体と皆の迫真の演技が合わさったんだ。恐怖を覚えた者達からの情報を聞かされる者は真に受けるだろうね。しかもその恐怖が自分に向けられる可能性があるわけだしな」

 

 ――――。


 と、はたして正にだったようで、ダークエルフさん達は昨日の夜には戻ってきた。

 

 再会時には和らいだ表情となっていた。


 表情から本当の自由を手に入れたというのが分かる。

 俺に対して大いに感謝をしていた。


 俺のハッタリを耳にしたポルパロングは日和ったようだな。

 だからこそ、ダークエルフの美人さん二人を手放して、完全に俺の所有物として譲渡することにシフトチェンジしたんだろう。


 俺憎しで事を構えるってのは出来なかったようだな。

 今ある自分の立場をしっかりと守りたいだけの小者だというのが分かる。

 小者じゃないなら、分かりやすすぎるこすっからい画策なんて練らないわな。

 

 どれだけエルフが長命であっても、小者の考え方ってのは人間とさほど変わりがない。

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