PHASE-1094【色味からして危険】
「準備中を狙うとは……本当に卑怯だな」
「だから卑怯もラッキョウもあるものかって言ってるだろうが。準備することがあるなら戦いが始まる前にやっとけって事だよ」
まあ、言っててブーメランだけどな。
なんでもぶっつけ本番な俺にも言えることだからね。
よかった。ベルやゲッコーさんがいなくて。
「動きを止めよ!」
「馬鹿だな。俺が動いている時点でさ――」
「終わってるよ! ストームシージ!」
「ガイストストライク」
「ナイス。シャルナ、リン」
俺がポルパロングへと仕掛けて、周囲のエルフ兵たちの視線が俺に向いた時点で終わりなんだよ。
俺が攻撃を行うということは、シャルナとリンも動いているって事なんだよ。
指示を出すのが一手遅れたポルパロングの足元から竜巻が顕現。
アッパーテンペストのような形状だけども、吹き飛ばすといった効果ではなく、竜巻の中に閉じ込めるといったもの。
そこにリンの魔法がわずかに遅れて発動。
竜巻とは別に球体を象った風の中に封じるといったものだ。
「ぐぅ! ぉぉぉっぉぉお……」
リンの魔法が顕現した途端、明らかにポルパロングの声の質が変わる。
轟々と唸りを上げる風音をも凌駕する苦痛に支配された声が、俺の耳朶にまで届いてくる。
中では相当なダメージを受けているというのが分かる。
「エグいわね。手加減なしじゃない」
「だって私はアンデッドだもの。目の前のお馬鹿さんの考えだと悪なのでしょう。ならこの程度は当然でしょう」
と、シャルナに返答するリン。
シャルナの魔法がダメージよりも拘束に特化した包囲魔法なら、リンのは攻撃特化型の包囲魔法といったところか。
後者の攻撃特化型の魔法内部では、風の刃と圧による攻撃が繰り返し行われている。
あの中には入りたくないね。
加えてシャルナの魔法もあるからな。あの風の牢獄から抜け出すのは難しいだろう。
――なんて思わないで警戒できる俺は成長していると思うの。
やったか!? なんてコクリコのようなフラグは立てませんよ。
「やったかな?」
「……うん」
そう言うのはコクリコだけでいいのに……。
まさかのエルダースケルトンの一体からそういった発言があるなんてね……。
「――――! がぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「うっそ!」
「あらやるじゃないの。ダラダラと長い時間を過ごしているだけかと思ったのに」
術者二人による驚き。
「ぎ、ぎざまらぁ゛」
ズタボロっすね。
風の牢獄を吹き飛ばして姿を見せるポルパロング。
髪は乱れに乱れ、至るところから出血。
服やら自慢の装身具はボロボロ。
見るも無惨な姿とは、目の前のハイエルフに相応しい言葉。
とは言え、高位の術者二人による魔法を吹き飛ばしたのは敵ながら見事。
まあでも――、
「すでに死に体ではあるけど」
追い打ちを決めるために動く。
拘束がベストなので素手による攻撃を選択。
威力がありすぎると息の根を止めてしまうので、ここでも弱烈火を選択――したところで、
「ミ、ミストラルスタンド……」
仕掛けようとする俺とその後方にいる面々に対して発動する魔法は、強力な風。
籠手を前面に出してガードの構えに変更。
――痛痒というものはない。
背後からの説明だと足止め程度の魔法だという。
足止めをしているその間に、回復を選択すると予想できる。
この世界では瞬く間に傷を癒やすことが可能だからな。
しかもエルフの権力者。
即効性のある高価なポーションを持っていて当然の存在。
その証拠に――、
「その手の中身はなんなんだ?」
さっきも服の中に手を突っ込む動作を見せていたが、今回はしっかりと手に持つことが出来たようだ。
この状況下で絶対に手放したくないアイテムだというのは、握り込む強さで分かるというもの。
掌にスッポリと収まる程度のモノのようだ。
――風が弱まったところで足を動かすも、それよりも速く、
「ハハハ……後悔させてやる……ぞ」
と、不敵に笑みつつ発せば、握っていたモノの正体を見せてくる。
透明の小瓶だった。
中身は光沢ある黒い液体。
回復アイテムというより、毒のようにも思えるモノが入った小瓶を指で摘まむと、栓を外して大口を開く。
飲み込もうとする時、わずかに逡巡も窺えた。
その動作から察するに――、
「やはり毒か?」
小瓶からトロリと垂れ落ちる、粘度のある黒い液体を一飲みすれば――、
「…………!? ごがぁ!」
色味から分かってはいたが、予想通りのリアクション。
両手で首を絞めるようにしながら、ポルパロングは苦しみだす。
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