PHASE-1095【肘から分かれているタイプ】
床へと倒れ込み、バタバタと足を動かしうめき声を上げ続けるポルパロング。
「二人とも」
俺では何を飲んだか分からないので素直に問うも、両名とも首を左右に振るだけ。
長い時を過ごす二人の知識にも含まれない液体のようだ。
コイツが独自に作りだした毒薬か? 自害するための……?
――……苦しみから暴れていた体は徐々にビクンビクンと体を震わせ、更にそこからピクピクとした痙攣へと変わり――、ポルパロングは白目となって口から泡を吹き、仰臥にて動かなくなる。
「……なんなのよ」
なんとも後味の悪い終わり方にシャルナが落胆の声を出す。
捕らえるべきだった者が自害。
それも氏族の自害。その場にいる俺達が自害に追い込んだといった形になるのだろうか。
これが後悔させるって事か?
氏族を死に追いやった事で、この国との関係性が悪くなるということなのか?
ポルパロングはそれを狙っていた……。
――……いやいや、そんな馬鹿な。だって相手は欲の塊のようなポルパロングだぞ。
そんなヤツが最も欲するであろう自分の命を――、
「二人とも体を弛緩させるのはまだ早いわよ」
「主の言うとおりである」
と、リンとエルダースケルトンの一体が警戒を解かないように警告。
アンデッドが警戒を解かない。
死と共存する存在がそういった姿勢。
「うん。分かってた! よっと!」
咄嗟に後方に下がる。
分かってはいたが……、
「なんだよ1?」
と、目の前で起こる光景には驚きと疑問の声を投げかける。
ポルパロングが倒れていたところより突如として巨大な腕が現れると、握り拳を作って俺へと目がけて振り下ろしてくる。
腕は黒い体毛に覆われたものだった。
大きさは電柱を思わせる。
トロールが振るう鈍器のような大きな腕が――、
「四本……だと」
振り下ろされた腕とは別の残りの三本は、まるで大蛇が鎌首を上げるかのように俺へと狙いを定める。
床にたたき付けられた一撃で巻き起こる粉塵をかき分けるように巨大な腕がもう一度俺へと襲いかかる。
バックステップで距離をとれば、次に俺へと迫る一撃は、拳ではなく掌による叩きつけ。
これは横っ飛びで回避する。
叩きつけにより生じた風で粉塵が吹き飛び、腕の根元――つまりは中心部分がはっきりと姿を現す――。
「なんだコイツは……」
俺の知識の外の存在。
分かることがあるとするなら――、
「ア゛ァァァアァァア゛ア」
「なんかやばいのが出てきた」
――といった直感。
「二人とも」
継いで後方に問う。
あの生物はなんなのか是非に門外漢である俺に教えてもらいたい。
特にシャルナは幻獣などに詳しい。
リンも幅広い知識を有しているから答えを期待する。
――が、二人に答えを求めても、先ほど同様に返ってくるのは首を左右に振るという動作。
この二人でも分からない存在。
念のため四体のエルダーにも問うが、やはり答えは出てこなかった。
「フハハハハ――ッ! これはなんと素晴らしい! 力が無限に湧き出てくるようだ!」
「なんだよ。咆哮だけでなくしっかりと喋れるのかよ」
「勇者。ここで貴様たちを終わらせてやる!」
どもった声ではあるけども、見下した声の調子からしてポルパロングであることは間違いないだろう。
それにしても――、
「何とも醜いのが上から目線で物を言うわね」
リンが俺の感想を代弁してくれる。
醜く、不気味なモンスター。
「マレンティ――じゃねえな」
以前に戦ったサハギンの上位種であるマレンティのように腕が左右二本の計四本生えている。
マレンティの腕の生え方は両肩から二本ずつ生えていたけども、目の前のは肘から分かれての二本腕であり、似ているようで違った生え方だ。
なにより人間サイズのマレンティと違って、眼前の存在は――、
「デカいな」
蹲踞からやおら立ち上がる巨体の身長は六、七メートルはある。
腕同様に全身が黒い体毛で覆われている外見。
体毛で全体を覆っているけども、そこからでも分かる隆起した筋肉は、対象となる全てを粉砕するだけの膂力があるというのを伝えてくる。
外見で最も目を引く部位は、醜いという感想を生み出す最たる部分である特徴的な頭部――口だろう。
人間なんかと違って横に口――ではなく、頭頂部から縦に裂けており、無数の大きな牙が裂け目に沿って生えている。
またその口の両側面にギョロリとした大きな目が一対。
眼球は茶色に濁っており、黒い瞳孔を囲う虹彩は血のような赤。
アンデッドとはまた違った不気味さを醸している大型の黒い怪物。
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