PHASE-1618【落とし前はきっちりと】

「では次はクルーグ商会に乗り込めばいいな」

 俺とガリオンの間に入ってくるベル。

 ようやく情報を得ることが出来ると逸っているが、


「まあ、待て」


「分かっている。いきなり正面から訪れ問題を起こせば、その間に潜んでいる連中に逃げられる可能性があるかもしれないのだろう」


「おう、存外、冷静で助かるよ」


「本当は今すぐにでも感情を表に出したいのだがな」


「「「「お、おお……」」」」

 押し殺してはいるようだけども、ひりついた焦燥からの怒りというのはヒシヒシと俺達に伝わってくる……。


「で、次はどうする」

 声を整えつつのガリオンからの問いに、


「予定通り、夜には酒場にも行ってみるさ」

 いくつかの酒場を巡ることで、別の情報を得られるかもしれない。

 目的に入っていた場末に行かず、大通りにある酒場だけでも良いかもしれない。とも言ってみる。

 理由としては、大通りならクルーグ商会に関係している人物が仕事を終えてからの一杯を楽しんでいる可能性もある。

 そういった連中から最近の儲けなんかを聞きつつ、なぜそんなにも儲けているのかを聞き出したい。

 儲けの原因がスティミュラントなら、それが何処から卸されいるのかを聞きたい。


「場所が分かれば、そこを中心としながら他を探るということですな?」


「そういう事だよジージー」

 明日になればミルモンに能力を発動してもらうけども、より正確に見通す力を発動してもらう為にも、情報は得られるだけ得てから発動してもらいたい。


「ちゃんと考えているんだな。平静を装っている私とは違う」


「お、おう」

 急に柔和な笑みを向けて褒めてくるベル。

 俺の鼓動が速くなるってもんですよ。


「ま、そんな笑みを向けてくれるならアップもまだまだ余裕があるって事だ。だから今しばらく冷静でいてくれよな」


「分かったよ。オルト」

 俺の発言をちゃんと聞き入れてくれるのは、信頼関係が今までより高くなっているからかな?

 そうであれば嬉しい限りだ。


「そ、それで、コソコソと話し込んでいるとこ悪いけど……」


「あ? ああ。なんです受付さん」


「流石にソレをタダって訳には……」


「いくらだ」


「スティミュラントの大瓶となれば、ダーナ円形金貨が一枚ってところだね」

 ――……円形金貨一枚って、ざっと十万円くらいか……。

 大瓶一本で十万……。


「ふっかけてるな」

 凄むガリオン。


「いや……妥当な値段だよ。本来は少量でいいんだからね。好みの量で混ぜたいからブリオレは大瓶を用意させたんだし」

 あの大男。女を抱くためには金を惜しまないタイプのようだな。

 まあベルのような傾国クラスとなれば、誰だって金を惜しまないか。


「立て替えといてくれ」


「ええ……」

 なんで俺がむさいおっさんのために立て替えないといけないんだよ……。


「これも今後の調査のためだ」

 受付嬢に聞こえない程度の声で言われれば、


「分かったよ」

 渋々と受付嬢の前に金を置く。


「へ~。円形金貨一枚で払えるなんてね……。あんた達かなりの金持ちなんだね」


「金持ちはコイツだけだ。いいところの出でな。世間知らずの勘違いが冒険者になったってやつだ。よくある話だろう」


「で、現実に打ちひしがれるってやつね」


「コイツの場合は打ちひしがれることなく相手を打ち崩していくんだがな」


「へ~」

 俺に感心を持つ受付嬢。

 金も持ってて冒険者としても成功を収める。

 作り話ではあるが、ガリオンの俺に対する評価も含まれていると勝手に判断させてもらう。


「こんな出会いにはなったけど、もしこのギルドが気に入ったなら、いつでも上の連中は受け入れると思うよ」


「ないよ。ない!」


「そ、そう……」

 こんなトーシローばかりが跋扈して勘違いしているところなんかに興味ないね。

 俺が野良だったとしても、ここだけは御免だね。


「出ようか」

 こんな所の空気は吸いたくないからな。

 安酒の酒気が蔓延しているところなんて、さっさとお邪魔したい。


「と、その前に」

 ここでまたもガリオン。

 出入り口で立ち止まる。

 何事かな?

 そう思ってガリオンへと目を向け、その間に瞬きを一度したところで、


「ぐぎぃ!?」

 断末魔を上げて床へと転がるゴールドポンドのモブ一人。

 鋼鬼ガリオン・バフマンによる拳打一撃。

 さっき俺が言ったのを実行するかのような一撃。

 瞬きをしている間に床に転がすというのを実際にやってのけたな。

 

 ガリオンの正拳突きを見舞われたモブは俺が一撃で倒したブリオレ同様、白目を剥いてピクピクと痙攣。

 戦意を失っていた連中からすれば、突然の一撃に何が起こった!? といった、驚きを通り越しての混乱状態。

 

 ――で、


「なんで殴ったの?」

 気になったので俺が聞く。


「簡単だ。粗製とはいえソイツはこの俺にナイフを投げた。握り折ってはい終わり――ってわけねえだろう。この俺になめた事をしたんだ。それ相応の報いは受けてもらわないとな」

 うわぁ……。

 なんて悪い顔での嘲りなんでしょう。

 流石は元悪党。

 こういった時の一撃には一切の慈悲がない。

 いや――、呼吸をしているからな。一応は力をセーブしたようだ。

 鋼鬼を冠する男の拳は、平時の膂力でもこの程度の奴等ならワンパンで命を奪えるからな。

 

 敵の時はおっかないおっさんだったけど、味方になってくれれば、おっかないおっさんのままだ。

 

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