PHASE-607【光の世界】
「さて、好機」
と、何とも楽しげなリン。
そんな顔を見て俺の表情は苦虫を噛み潰したようなものになっていることだろうな。
「天より零れし裁きの輝き――」
「おお」
なんかゼノ以来の詠唱だな。
あいつのはゲッコーさんが防いでくれたけども、今回は……。
詠唱を初めてもエビルプラントなるラフレシアの親玉みたいなのはこっちに対しての攻撃をやめることはない。
蔓とトゲ、舞い散らせる毒花粉と三パターンしかないけども、一つ一つが広範囲の攻撃なので対応するだけで手一杯。
俺が懸命に防いでいる状況下であっても、リンの言葉は途切れることなく継がれていく。
「――悪道歩む愚者を光の制裁にて断罪すべし。救いなき光にて断罪すべし。清浄なる世界を照らす輝きよ、明白、
魔法名を口にした次の瞬間、エビルプラントの背後にある後光が激しく輝く。
ストレイマーターの首にかけていた物に、礼拝堂に掲げられていたものと同じ上下逆の五芒星による輝き。
サタニズムなマークと同様なのに、禍々しさなどなく、神々しい輝きが力の間全体を照らす。
「――!? あっつ!」
火龍装備なのに熱さを感じる。
ジリジリと皮膚を焼くような痛みが走る。
火龍装備なのだからこれは炎熱系からくる痛みではないだろう。
聖なる光が体を焼こうとしているのか?
「アンデッドでネクロマンサーが聖光魔法とか」
「あら、喋る元気があるのね」
逆光となっているエビルプラントは黒色に染まっているから術者の姿は分かりづらいが、声はしっかりと俺の耳朶に届いてくる。
「……イグ、ニース……」
必死になって両腕を広げて炎のドームの中に身を置く。
先ほどまでのジリジリとした痛みからは抜け出せることが出来たけども、それも気休め程度。
明らかに俺のイグニースで防ぐには無理があるようだ。
炎の障壁が、光によって浸食されているのが確認できる。
だが少しは時間が稼げる。
その間に――、
「皆――は?」
見渡したところで全てが白光の世界。
ビジョンを使用してみるが、視界を確保することは出来ない。
「痛ぇ……」
光が炎を侵食すれば、イグニースに複数の穴が空く。
雲の切れ間から差してくる光芒のように、障壁の中に光が入り込み、それが体に触れる事で痛みに襲われる。
イメージを行い半球のサイズを縮小させていくことで、空いた穴を防ぐことに成功。
それでもジリジリとシールドを破ろうとする光に恐怖を覚えてしまう。
――…………。
「はぁ……はぁ……。ふぅぅぅぅぅぅ――――」
長い呼気を行って体全体を見渡す。
火龍装備に損傷はない。それどころか六花のマントも無事だった。
ジリジリと皮膚を焼くような痛みからするに、マントは燃えていてもおかしくないはずなんだけども……。
どうやら人体のみに影響をおよぼす攻撃だったようだ。
火龍装備の加護がなく、イグニースで防がない状態だったら、間違いなく死が俺に歩み寄ってきただろう。
死は回避できたけども、ちょっとした風が体を掠めるだけで激痛を覚えてしまう。
急ぎ雑嚢からコクリコに使用して残り一つになったハイポーションを体にかければ、痛みが少しずつだけど緩和していくのが分かった。
勿体なくもあるけど、現在が戦闘中ということもあるから即応するために、解毒であるアンチドーテの栓をとって、グッと一口で飲み干し体内から痛みを癒やしていく。
アンチドーテは始めて口にしたけど、味の感想はない。
そんな余裕はないとばかりに、脳が味覚をカットして、周囲に全集中するよう自己防衛本能が発動しているようだ。
地龍から貰った曲玉があるから毒攻撃は無効に出来るけども、アンチドーテにはハイポーションと同じ効果もあるので、即効性の回復という方で使用。
ハイポーション二個の消費と同等の回復量によって、体からは痛みが消えていくのが分かる。
でも二個使用しても、痛みが残るから完全回復にはほど遠い。
それほどに大きな威力の魔法だったというのを体で理解する。
装備に恵まれているからこそ、この程度で済んだということも同時に理解する。
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