PHASE-608【俺は耐性持ってない】

 じんわりと残る痛みを意識から排除して、


「大丈夫か!?」

 とにかく誰でもいいから無事を知りたいと、大音声を発せば、


「問題ない」

 と、直ぐさま俺とは真逆の静かな声で返事をくれたのは、当然ベルだ。

 炎を体に纏わせている状態で俺に近づいてくる。

 炎を纏わせた状態のベルなら、ちょっとやそっとではダメージは入らないだろう。

 現在よりも、より強力な青い炎を使用していた時には、火龍使用の大魔法を防ぎきったからな。


「他の皆は!」

 未だに力の間には光の残滓があり、濃霧の中に佇んでいるような状態。

 近づいてくるベルに俺から駆け寄り問えば、


「どうだろか。邪気は消え去っている」

 ということだった。

 確かに大型スケルトンであるガシャドクロの気配を感じない。

 いくら視界が悪いとはいえ、あれだけの巨体なんだから目立ってもいいんだけどもそれがない。

 やはりリンの範囲魔法によって消え去ったと考えるべきか。

 詠唱とこの状況から、ヘイローシャインは聖光魔法と見ていいだろう。

 アンデッドに対して絶大な威力を誇る魔法だったはず。

 アンデッドがアンチアンデッドの聖光魔法とか。笑えねえよ。

 濃霧のような光の中でベルと背中越しに警戒。

 ――――徐々に鮮明になってくる空間で最初に視認したのは、


「ああ!?」

 真っ先に声を上げたのは俺。

 プロテクションの中でシャルナが両膝を突いた状態。

 半透明のドーム越しにシャルナと目が合えば、わずかに微笑んだと思った瞬間、障壁が消え、術者が力なく倒れかかる。

 床に倒れる前にプロテクションの庇護を受けていたゲッコーさんがしっかりと体を支えてやっていた。

 ベルと共に一足飛びで合流すれば、


「大丈夫なのか!? おい! シャルナ!」


「……トール……うるさい」


「おお……」

 まあ、大丈夫なようだ。

 青ざめた表情は全てを出し切った様子。

 プロテクションであれだけの魔法を防いだんだ。集中によって精神は疲弊したはずだ。

 コクリコが自分のポシェットからハイポーションを取り出し飲ませてあげている。

 疲労が軽減したとしても、シャルナにはもう少し休んでいてもらおう。


「やってくれたもんだ」

 プロテクション内で難を逃れたゲッコーさんの声は低くて怖い。

 俺たちにもしっかりとプレッシャーを与えてくる。

 流石のベルも、普段以上に背筋が伸びる。


「ビシビシとプレッシャーを感じさせるわね。歴戦の戦士さん」

 鋭い眼光で射抜くように睨むゲッコーさんの視線は高い位置に向けられる。

 伝説の兵士の重圧にも意を介さないくらいに胆力のあるリンは、花弁の中で悠々とこちらを――、


「見下してくれる」


「高い位置にいるからね」


「絶対に引きずり出して謝らせてやる!」


「その前にもう一度ヘイローシャインを見舞ってあげる」

 させるわけがねえ。


「ベル」


「分かっている」

 以心伝心なのは嬉しい限り。

 俺たちから離れるベルは、一目散にクリスタルで出来たオベリスクへと駆け出す。


「だからそれはやめて!」

 ここを攻められると弱いのか、リンの声音には本心からの弱気が混ざっていた。


「ベル。徹底的にやってくれ」


「任せろ」

 頼りになる返事。

 煌めく白髪を揺らす背中を一度見てから、


「おりゃ!」

 ベルの背後に伸びる蔓を断ち切ってやる。


「邪魔しないの」


「邪魔するのが当たり前。ベルに気を取られるよりもこっちを相手にした方がいいぞ」


「調子に乗らないことね!」

 ヘイト集めはゲームでもこなしたもんだ。

 狙うなら俺だけを狙え! って、格好つけた発言を口にしてもいいんだろうけど。


「マスター。エンド・オブ・フェイトで決めればいいよ。あのお姉ちゃんには効かないみたいだけど、お兄ちゃんには効きそう」

 それは止めて……。

 折角、立ち向かうっていう気概で漲っているのに、やる気が削がれるような事はされたくない。

 即死系に対抗する装備は俺には無いからな。

 というか、ベル以外は即死系ってどうなるんだ? 俺もだけど、皆、即死耐性の装身具とか所持してないぞ。

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