PHASE-375【大事なところで覚めるよね……】

「ベル!」


『なんだ、急に大きな声を出して』

 なんてネットリとした口調なの。

 エロすぎるってばよ。


「ぎゅっとしていいか」

 大冒険だぞ。夢でなくリアルだったらかなりのアドベンチャーだぞ。

 調子に乗るなと、全力の拳で殴られるかもしれないぞ。


『いいぞ』

 ――……うそやん。即答でいいって返ってきたよ。

 やっぱ夢なんだよな?

 だが夢だからこそ、俺の思い通りに進んで行くって事なんだろうな。

 いいの? 夢だけど、その強烈なロケットおっぱいを堪能していいの?

 

 いつでもいいとばかりに、ベルは両手を大きく開いて、飛び込んでこいと誘ってくる。

 本当にいいんだよな。夢だからな!

 夢の中なのに、無理矢理に言い聞かせる俺も中々のヘタレだぜ。


『どうした。来ないのか?』

 ひょう! 首を傾げて、そんな潤んだ目で見られたら――、


「お願いします!」

 ダイブする感じでベルのおっぱいに突っ込む。

 

 ――――――ふぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 なんだよ、この暴力的な弾力は――――。

 ゴロ太はこれを毎回楽しんでいるのか。

 凄いよ、押し返してくるような、沈んでいくような。温かくていい香りだよ。流石は凄く尊き理想胸アバカンだよ。

 

 うっすらとつけた香水の香りと相まって、甘く暖かな一時。

 夢だと分かっているのにこの安らぎと癒やしは何なの? 現実のようでもある。

 現実と夢の中間点に立っているような感じだろうか。

 非常に不可解な感じだけど、そんなのどうでもいいくらいに幸せな時間。


『どうだ、気持ちいいか』


「うん!」

 いつもと違って優しく色気のある声。

 それに対して、屈託のない笑みを湛えて元気に返事する俺は、幼子のようだ。

 完全にベルのおっぱいに甘えたいお年頃になっている。


『嬉しそうだな。もっといい事をしないか』


「!?」

 これ以上にいい事があるの?

 あるとするなら、相棒が一気にフルスロットルな状態になると思うんですが、こんなリアルな夢なら、夢であっても童貞卒業ってことで問題ないよね。

 極上の美人がお相手とか、最高かよ!


「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――」

 ――…………フゥゥゥゥゥゥ……。

 ――……分かってたよ……。うん……。

 やっぱり、夢だったんだな……。

 目を開けば、勝ち誇ったように諸手は拳を作っていて、天井に向かって高らかに挙げていた。

 アバカンへダイブするという最高の夢だったよ……。

 だからこそ…………、この先の展開が見られなかったことが、


「残念でならねえ……」

 こんなにも本気の思いを悔しがって吐き出す俺も珍しい。

 ボフッとベッドを殴れば、いい物だからか、俺の拳が沈んでいく。

 一定の所まで沈んだら跳ね返ってくる。まるで夢の中のベルのおっぱいのように。

 なるほど、このベッドの感触が、俺に素敵な夢を見せてくれたんだな。


 しかし――、


「何ともリアルな夢だったな」

 独白。

 念のためにスンスンと自分の寝間着を嗅いでみる。

 うん……、夢のような甘い香りはしなかった。ベッドに振られている香水かエッセンスオイルの香りはしたが、夢のヤツとは違う気がする。

 ベッドのは花のような香り。夢のはもっと甘い香りだったよな~。

 とはいえ、夢の中だからな。勘違いかもしれない。

 ベッドの感触と香りが、ああいうエロい夢を見せてくれたと考えるべきだろう。

 

「あれだな、新しい映画の形でお馴染みの、4DXみたいなもんだな」

 あまりにもリアルすぎた。この状況でベルに会ったら胸に飛び込みそうだぜ。

 飛び込んだら、そのまま死に繋がるだろうけど。


「まだ寝室にいるのか? 起きるんだ」

 ビクリと体を震わせてしまう。

 先ほどまで夢の中にいた人物の声。

 夢と違って、婀娜っぽさはなく、凛と透き通るような声。そんな声だからこそ、胸に飛び込むなんて愚行な考えを払拭できる。


 ――――随分と寝ていたようだ。窓を見れば、太陽が中天に差し掛かろうとしている。


「起きろ!」

 強い語気に変わった。


「お、起きてます」

 ベルとの夢を思い出して、声が上擦ってしまった……。


「なんとも馬鹿っぽい声だな」

 あ、間違いなくこれは現実だな。この冷たい言い様は正に現実だ。

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