PHASE-374【リアル……だよね?】
ゲッコーさんの登場に驚いていたランシェルちゃんにもう一度おやすみと告げて部屋に入る。
いや~、なんだろうかさっきのやりとり。
恋人同士みたいだったよな~。
実際、恋人同士が部屋の前でおやすみの挨拶をするのかどうかは、経験がないから分からんが、きっとあんな感じなんだろう。
でもって仲良くなれば――――、部屋に招待ってか。
「うひょぉぉぉぉぉぉ」
リビングからアールを描いた間取りの広い寝室へと移動。
窓からは月が見える。満月だ。青白い幻想的な輝きを放っている。
広い寝室に見合ったキングサイズのベッドでは、幻想的な風景に感動する余裕もない俺が、興奮したままゴロゴロと転がる。
ふかふかのベッドのなんと心地よいことか。
広いベッドでは、縦横無尽にゴロゴロ出来る。実家にあるシングルのパイプベッドは不可能なことだ。
美人と可愛いメイドさん達に囲まれて、こういうベッドで毎日眠っている侯爵がうらやましいぜ。
ベッドもフローラルな良い香りだ。香水かエッセンシャルオイルでも振ってあるのかな。
良い香りのおかげか、興奮冷めやらぬ俺の体は、心地よく重くなっていく……。
――………………。
――…………。
『おい』
ん? なんだ? 朝か?
『起きないか』
あん? 明らかに今さっき寝たばかりなんだけど、いくら深い眠りだからって、こんなに早く朝が来るわけがない。
こっちは結構な量の酒を飲んでるんだから、もう少し寝かせてくれよ……。
うちの親父も飲みすぎた次の日は、頭痛い頭痛い起きたくない。働きたくない。拙者、働きたくないでゴザル! って言って、母ちゃんに思いっ切り蹴り起こされるのを見たことあるけど。
そう考えると、俺と親父殿は親子なんだと再確認できるね。
毎度女性に蹴られるのは、遺伝子レベルによる抗えない運命なんだろう。
『起きろ』
!? って、この声はベルだな。
なんだろう、思考がはっきりとしてきたぞ。なんか凄く優しい声音だ。
しかも妙に婀娜っぽい。
その声のせいか、俺は目を大きく見開いて、ガバッと音を立てて起き上がる。
急いで起きたもんだからクラッとしてしまったが、こういう感覚に襲われるという事は、夢ではないようだな。
『やっと起きたな』
やはりベルだ。微笑んでいる。
婀娜っぽさもあるけど、月明かりが窓からさす幻想的な光景の中で、ベルの頬が気恥ずかしいのか紅潮していた。
コクリコがギャルゲー主人公の家に忍び込んだ時には、寝惚けていて夢だと思って胸を揉んでしまったな。
でも今回の俺は寝惚けていない。
殴られるのは嫌だ。
婀娜っぽくても俺は油断しない。
バニーにしたり色欲で動けば、侮蔑の目と修正が待っているからな。
忠誠心同様、ゼロの好感度をマイナス値までには落としたくない。
思ってなんだが、ヘコんでしまう。
「どうした? また侵入者か?」
ここは冷静な声音で問うのが正解だろう。
『いや』
ゆっくりと首を左右に振る。
ゴクリと唾を飲む。
白髪が月明かりによって白銀となって輝き、首に合わせて流れるように動く様は色気しかない。
首を振れば、甘くいい香りが俺の鼻孔にまで届く。
「じゃあ、な、ななんの……ようだ?」
喉に声がへばりついた感覚に襲われ、上擦った声での質問になってしまった。
『こうやって会いに来てはいけないのか?』
え……。なにその上目遣い。
動悸がまずいことになっている。
なんなんだこの状況は!?
なんでそんな薄地の寝間着なの? 以前のものとは違いますね。ああいう貞淑さを体現しているのも好きなんだけどな。
まあ、エロいネグリジェのほうが大好物ですが。
上目に続いての美人の婀娜っぽい笑みは、破壊力抜群だ。
ランシェルちゃんに傾いていた天秤が、カターンと音を立ててあっという間にベルに戻るっていうね。
『ん!』
なんだ? 急に笑みからムッとした表情になったような。
見間違いかな?
でもなんだろうかこの状況。
――……あれか!? 俺がランシェルちゃんと仲良くしてることにやはり嫉妬していたのか?
――――んなわけないか……。そんな事はあり得ないことだ……。こりゃやっぱり夢だな。リアルだが夢だ。
『ん、んん』
咳払いをして頭を左右に振るベル。
なにやら緊張しているような……。
いや、まさか! あり得ない――――が、その潤んだ瞳はなんなんだ!
どうしてそんなうるうるな瞳で凝視してくる。
そういう事なのか! 俺と一緒に大人の階段をのぼろうとしているのか。
俺はこのリアルな夢で童貞を捨てるのか? 夢で童貞捨てるって意味が分からんが。
というか、リアルであれ!
リアルな夜這いであれ!!
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