PHASE-373【パライゾ】

「で、どういう原理なの?」

 話を振ることで、謝罪を強制的に終わらせる。

 

 ――――街灯の光の原理は、タリスマンを魔道具としたもので、タリスマンに封じているファイアフライを発動させることで、夜の間は常に光り輝いてくれるらしい。

 タリスマンに魔力を封じることで再利用が可能なのだそうだ。

 エコだな。俺の元々いた世界で発売すれば億万長者になれそう。

 魔法がない時点で意味は無いが……。

 

 欠点は魔法を使用し、且つタリスマンに封じるだけの技量を持っている術者を揃えなければならない事。

 そうそう簡単に設置が出来るわけではないそうで、ドヌクトスやマガレットのような大きな街でのみ発展しているそうだ。


 町村だと、火による灯りが主力として活躍しているのが普通。

 王都でも火がメインだよ。と、口から出せなかったのは、ドヌクトスより劣っているというのを口にしたくないという安いプライドからかもな。

 なんだかんだで王都に愛着がある証拠だろう。

 

 こういう話を聞くと、ここに負けないくらいのインフラを整えてやるという対抗意識の芽生えが払拭されない。

 ベルも言っているが、まずは王都より周辺地域の発展だからな。

 全体の発展が進めば、王都をここに負けないくらいの所に変えてやるんだ。

 そしていずれは、目にうるさい光が支配するショッキングピンク街の野望も――――。

 

 でもその為には物資を揃えないとお話にならない。姫に拝謁もしないといけないし、侯爵には助力をお願いして、首を縦に振ってもらわないとな。

 朝食の時のやり取りから察するに、後者は問題ないと考えてもいいだろう。


「力強い目ですね」


「え、そうかな?」


「はい。何かを成し遂げようとしている目です」

 笑みがなんとも可愛い。しかも俺を褒めてくれる。ショッキングピンク街を思っての強い意志だったんだけど、そんな事は口には出さない。

 力強い目か――――。ベルをそうは言ってくれないぞ。さっきもニタニタするな。って、怒るし。 

 ベルも、この可愛いランシェルちゃんみたいになってくれないものだろうか。


「長くいますと体を冷やしてしまいます。勇者様なのですから、ご自愛してください」

 かあ~。

 俺の欲しい言葉ばかりをくれますよ。


「パライゾ!」


「はい!?」

 大音声にビクリとランシェルちゃんの体が震える。


「ゴメン。なんでもないよ」

 あまりの嬉しさに、ついつい楽園と叫んでしまった。

 これだよ。俺が求めていた女の子。

 俺の事を心配してくれる可愛い女の子。どうするのベル。このままだとヒロインの座をランシェルちゃんに奪われるよ。

 寝取られちゃうよ。NTRだよ。

 

 まあ当の本人は、ヒロインの座にすら座ってやろうとはしてないけども。

 モフモフを膝の上に座らせる存在ですけども。

 寝取られもいいけども、ハーレムを作るのもいいよな~。

 ここのメイドさん達は美人さんばかりだからな~。


「おい。何を腑抜けた表情になっている」

 無理矢理に現実へと戻そうとする鋭い声が、斜め後ろから刺さってくる。


「明日も早いのだ。さっさと寝ることだ」

 は? いやいや、お前が夜風にでも当たれと言ったんだよね。ベルさん。

 なんで怒ってるの? あれ? もしかして嫉妬してる!?

 俺と他の女の子が仲良くしてるのを目にして嫉妬しているのかな。

 今までは何とも思っていなかったのに、共に長く旅をすることで、俺に好意を抱いたとか?

 そうだとマジで嬉しいんですけど。


「何をニヤニヤしている。気持ちの悪い」

 ニタニタと言われれば、俺がニヤニヤと返すのが分かっているからの台詞なんだろうな。

 あと、語末の台詞がいらない……。淡い思いだったと痛感させられるから。

 本当に俺を見下したような目で見てくるよ。

 ヘコむね……。


「さあ、勇者様。お風邪をひかれるといけませんので」

 対してランシェルちゃんの優しさよ。

 マジでこの子が本命になっちゃいそう。


 ――――俺を部屋へと再度案内してくれる。

 分かっているからいいのに、本当にランシェルちゃんは優しい。ランシェルちゃんマジ天使。


「じゃあ、お休み」

 まるで恋人に言う台詞みたいですよ。

 恋人なんて今まで出来たことないから想像だけど。


「お休みなさいませ」

 優しい笑みと典雅な一礼を受けて、ドアノブに手を掛ければ、


「おんっ!?」


「おっと、すまない」

 勝手にドアが開いたと思ったら、ゲッコーさんがぬっと出てきた。


「なんですか。俺の部屋ですよ」


「あれだ、一応の確認だ」

 と、耳打ち。

 もしかしたら何かしらの罠があるかもしれないからと、ゲッコーさんが調べてくれたらしい。


「問題はなかったからゆっくりと休め」

 肩にポンと手を当ててからそのまま去っていった。

 ま、偵察のスペシャリストでもあるゲッコーさんが室内を調べて問題ないということだし、ゆっくりと休めそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る