PHASE-577【鉄拳どころじゃないよ。だってミスリルだから】

 短い足の割にフットワークもいい。

 鉄や鋼よりも軽いのに、強度が上ってのがミスリルの特徴だからな。

 俺のゴーレムもそういった特性を持っているようだ。

 いいじゃないか。ルックスはあれだけど。


「一気に仕留めろ」


「キュ!」


「くそ!」

 焦っているローバークロウラーに対してミスリルゴーレムが短い足で軽快に走り距離を詰めていく。

 合わせて俺も動く。

 目標を定めて一足飛びでストレイマーターまで接近。

 ミスリルゴーレムのおかげで妨害がないから思いっきり仕掛けられる。


「なめるナ」

 ギリッと歯を軋らせながら、俺の顔に目がけての鉄の爪による刺突。

 何度も目にしてる。


「よいしょ」

 左手で引き抜くお久しぶりのゴロ太のナイフ。

 アジャイルセンチピードの幼体の顎を素材として、愛らしいしぶ声のマヨネーズ容器体型が作ってくれたナイフ。

 ノコギリ状の顎をそのまま利用し、U字の鍔を備えたソードブレイカーの長所を活かして、五指に備わる鉄の爪のいくつかを狙って突き出す。


「ええイ!」

 見事に絡め取りに成功。

 ブンブンと振り回して外そうとしたり、残った左手でソードブレイカー引き抜こうとしているようだけども、


「気がそっちにばかり傾きすぎだ」

 俺の発言に白い目を見開き、驚きの表情となる。

 後退を考えたようだけど、一手遅かった。

 バックステップしたところで俺は振り切れない。

 ヒット&アウェイの戦法を繰り返していればよかったんだろうが、ローバークロウラーが動きを阻害されれば立ち回りに齟齬が生じてしまったようだな。

 隙だらけだ。


「おのれイ!」

 最高の切れ味は肉と骨の感覚を手には伝えてこない。

 斬ったときの嫌な感触がないことに感謝する。

 袈裟斬りにより体を分断。

 ブレイズによりスリップダメージも入り、ストレイマーターの体が燃え上がる。

 火炎耐性を持ったレザーコートであっても、斬った肉部分から燃え広がれば、炎を防ぐことは出来ないようだった。


「返してもらう」

 アンデッドだから痛覚はなく、炎に包まれようともジタバタと俺に攻撃を仕掛けようとするが、それを無視しながら右腕を踏みつけて一閃。

 ゴロ太のナイフを回収成功。

 回収する時に手首を切断するのが嫌だったけど、大切な物だからな。

 ナイフを左手に持てば、切断した右手もみるみる炎に包まれる。


「く……ソォ……」

 切断した右手が燃える中、その横では炎が更に広がり、頭部を呑み込む。

 炎に包まれながら口惜しそうな声を上がるが、それがストレイマーターの最期だった。

 

 ブレイズの火力はベルほどではなくても、生活で使用するような火力ではない。

 一分弱くらいで骨すら残さず燃やし尽くす。

 大したもので、鉄製の爪とコートだけはしっかりと残っていた。

 魔力付与を行ったのがアルトラリッチだとすると、英雄と呼ばれるだけの実力が有るというのは、残った魔力付与装備を見るだけで分かる。

 

 さて、残るはローバークロウラーなんだけども――――。


「キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 可愛い声が可愛くない拳を地面に叩き付けている光景。

 無慈悲とばかりに乱打の嵐。

 地面を殴る衝撃が振動となり、しっかりと俺の靴底に拳打の威力を伝えてくる。

 あれは決まったな。

 魔術師系のアンデッドだったからな。接近戦は弱いだろう。

 ミスリルボディの重量級パンチを食らえば、一発目で終わっているはずなんだけどな。

 オーバーキルがすぎるラッシュだった。


「もういいぞ」


「キュ!」

 力こぶを見せるようなポーズに、イラストなんかで描けば、ふんすと鼻息をするみたいに得意げ。


「助かったぞ。ええっと――」

 こいつの名前。

 ラグビーボールみたいな形。左手に持つゴロ太のナイフに目を落とし、


「ゴロ丸」


「キュウ!」

 名前にご満悦とばかりに、頷く頭がないので代わりに胴体をぺこりと倒し――いや、あれは胴体というより頭に手足が生えてんのか? まあいいや。とにかく一礼して地面へと戻っていく。

 というか、意思疎通が出来るんだよな。

 命令を聞くだけでなく、しっかりと返事をしたり、ポーズなんかのアクションもするからな。

 上位のゴーレムだからこそ可能なんだろうな。

 もっと上位になれば人語で会話も出来たりして。 


「さて、皆は――」

 と、油断はしない。一応はゴロ丸が倒したと思われるローバークロウラーの状況を確認。


 ――……うむ……。


 これは問題ないだろう。

 スプラッターすぎて吐きそうになる……。

 成仏してほしいという事も踏まえて、残火の炎を利用して、ローバークロウラーだったものを荼毘だびに付す。


 残火を収めて両手を合わせるいつもの所作。

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