PHASE-576【ミスリル製みたいです】

「痛みなんてないはずなのにな。生前の記憶がそういった動作をさせるのか?」

 やや口角を上げて言ってあげる。


「おの……レ!」

 鼻が曲がってる。鼻からはどす黒い液体が流れ出てくる。

 あれかな? 心臓が止まっているから、体内に残っている血が濁ったものなのかな?


「さがれビッシュ。フリーズダート!」

 初めて耳にする氷結系の魔法は牽制レベル。

 ダーツサイズの氷の刃が数本、俺へと一直線に向かってくる。


「おら!」

 ブレイズによる残火を上段から振る。

 ストレイマーターへの追撃と、ローバークロウラーの魔法に対する迎撃の意味合いをかねて。

 前者は仕損じたけど、後者はちゃんと対応。

 二人が合流すればなにやら話し込んでいる。

 これからの対応策って事なんだろうな。意外と苦戦する相手だと認識しておののいてほしいところ。

 次の手に出られるのも困るので、俺も一手うたせてもらう。

 いつまでも一対二って構図も嫌だからな。


「何かしかけてくるぞ」

 二人の会話が俺の動作で中断。

 若干だけどローバークロウラーの声には焦りが含まれているのが分かった。

 だったらもっと焦燥感を駆り立ててやろう。

 首にかけた曲玉を手に取ってから、地龍の言ったように先端部分で地面を擦る。

 擦るのに沿うようにして紫色の電撃が走り、ゴゴゴゴ――という音と共に大地が隆起する。

 お前たち程度にプレイギアを使うまでもない。

 まあ、こっちを試してみたかったのもあるけど。


「コイツ! クリエイトを使うのか」


「鬱陶しいナ」

 さあ、驚いてくれよ。この俺がゴーレムを召喚して使役するところを!

 

 ――…………。

 

 ――……なんだろうか……。なんか思っていたのと違う。


「なんだあのゴーレムは? ゴーレムなのか? いや……、うむ。大きさからしてゴーレムだろう。しかも色からしてミスリルゴーレムなの……か……。だがなんとも――」


「――――不格好だナ」


「やかましい!」

 くそ! なんで楕円形みたいなデザインなんだよ。

 体の表面部分が青白くほのかに輝く、ラグビーボールに短い手足が生えたようなデザインの、三メートルからなるゴーレムが俺の横に現れる。

 

 地龍の時みたいに、地龍の頭を模した格好いいゴーレムを想像していたのに。

 俺のときたら、楕円の中央につぶらな瞳と口がある。

 バレーボールのマスコットに対抗して、急ごしらえで無理矢理に作ったラグビーボールのマスコットなのかと思えてくる……。

 

 だがしかし。


「ゴーレムはゴーレムだ! 行けゴーレム。ローバークロウラーを狙え!」

 下半身のないアンデッドに食指を向けて指示を出す。


「キュ!」


「ふぁ!?」

 なにその愛らしい返事……。

 そもそもゴーレムって返事すんの? いままで見たヤツはそんな感じじゃなかったけどな。

 召喚者の指示にはしっかりと従うようで、短い足でちょこちょこと走りながらローバークロウラーへと向かってくれる。


「ふざけた姿のゴーレムが!」

 フリーズランサーにて対抗してくる。

 今までので一番大きな氷柱を顕現させ打ち出す。

 電柱より一回り大きく、鋭利な先端からなる氷柱が直撃すれば、ゴーレムであってもただでは済まないだろう。


「キュゥゥゥゥゥ!」

 気の抜けたかけ声と共に、短い腕による右ストレート。

 ガシャリと大きな音がすれば、氷柱が竹を割るかのように砕けていく。


「すげぇ……」

 デザインはあれだが、しっかりとゴーレムしている。


「流石はミスリルゴーレムと言うべきか」

 畏怖の声を漏らすローバークロウラー。

 どうもゴーレムにも種類があるようだな。

 海ではシーゴーレム。

 山賊たちが使用していた土のゴーレム。

 岩石で出来たゴーレム。

 俺が召喚したのは、ローバークロウラーの発言が正しいのなら、ミスリル鉱で出来たゴーレムって事になるのかもしれない。

 ゲームでもクレイ、ストーンやロック、アイアンなどのゴーレムがいて、その上位に位置するのがミスリルゴーレムだ。


 ゲームと同じような序列がこの異世界でも通用するのなら、俺のゴーレムは――、


「なりはアレだが、強いのではないだろうか?」

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