PHASE-575【Headbutt】

「イグニース」

 両籠手から盾を顕現させ、蜂の群れを彷彿させる氷の飛礫を防いでいく。

 ビチビチと音を立て、炎に触れれば容易く溶けていく。


「シャラ!」

 両手で盾を展開したところに間髪入れずにストレイマーターが正面から斬撃。


「ええい!」

 体を反らせて咄嗟に回避し、致命傷は避ける。

 ギャリギャリと火龍の鎧に爪が走り、切っ先が鼻の頭をかすめていく。


「くそ」

 顕現している炎の盾を振り回して追い払えば、


「無様な対応だナ。先ほどまでは斬撃で迎撃していたのにナ」


「うるせえ」


「フリーズランサー」

 くそ! まともに言葉のキャッチボールをさせてくれない。

 安全圏から氷の柱を俺へと向けて放つローバークロウラー。

 マレンティの時とは違うんだよ。

 あの時には無かった炎の盾でしっかりと対応。


「ヒョウ!」


「で!?」

 踏ん張って防いでいるってのに側面から蹴りを入れやがって!

 蹴られた方とは逆方向に勢いよく倒されてしまう。


「お前な! 顔を蹴るな」


「長い足ですまないナ」

 ムカつく笑みとY字バランス。

 このTHE日本人体型である俺に対しての挑発としては、抜群の効果だよ。


「だが、ダメージはあまりないようダ」

 兜は無くても、ピリア発動で火龍の鎧は目に見えなくても頭部もしっかりと守ってくれる使用だからな。

 とはいえだ……。


「うまそうダ」

 ニタリとストレイマーターが口角を上げる。

 こめかみ付近から頬を伝うのは温かいもの。

 まさかの流血とはね。

 血を見てその発言とは、やはりゾンビだな。

 食欲のままに噛みつかれるのだけはごめんだ。


「誇っていいぞ。この俺に血を流させたんだからな」

 格好つけて言ってはみたが、この台詞は主人公ではなく主人公のライバルポジションの発言だったと、言った後に気付いてしまう。

 でもまあ、実際に強気でいたい。

 相手は二人だ。弱気なところを見せれば調子づくからな。

 それに発言どおり、血を流したのも久方ぶりだ。

 こいつらよりも遙かに強い地龍戦の時だって流血はなかったのに。

 周囲が頼れる面子ってのもあったけどな。

 孤立したことで現実を突きつけてくれる。


「俺はまだまだの実力だな」


「の、割には余裕だな。フリーズランサー」

 効果があったからか、同様の戦法だろうか。


「なめんなよ!」

 ブレイズを纏った残火で氷の槍を切り払ってやる。


「おお! 斬るか」


「チィ」

 前者は感嘆。後者は追撃が出来なかった事を悔しがっていた。

 前衛と後衛がしっかりとしたコンビ。

 うちのコクリコにも見習わせたいくらいに素晴らしいコンビネーションだね。

 そのコンビネーションを打ち砕くことで勝機が見えてくるわけだ。


「この俺たちを相手に取り乱さず、落ち着いているのは見事だ」

 外見だけ見てれば取り乱したくもなるけどな。

 恐怖耐性ないのに、ゾンビ二人を相手とか。本当なら逃げ出したいけどな。

 まだストレイマーターはいいけど、ローバークロウラーは夜道で出会ったら即逃げる。

 

 さて、先手ばかり取られるのも癪なので、


「いくぞ」

 と言って驀地。


「来イ」

 楽しげに笑ってら。

 上段からの一振りを鉄の爪で防いでくれば、自慢の長い足での蹴撃。対してこっちは左拳を臑たたき込み蹴撃を防ぐ。

 痛みを感じない体ってのは本当にやっかいだな。普通は臑に一撃をくれてやっ

たら、痛みで顔を歪めるだろうに。

 表情は一切曇らず、後方に下がろうとする。

 ここで俺は食い下がる。

 下がると同時に遠距離からの魔法というのは分かっているので、ストレンクスンとラピッドによる敏捷性で追撃。


「寄るナ」

 自分たちの戦法を崩されるのが不快だとばかりに、爪の刺突で牽制し、距離をとろうとする。

 対して俺は、腰を捻って顔に向かってくる刺突を躱し、


「そんな冷たいことを言うなよ~」

 なんて返しつつ、速度を落とさず零距離まで接近。

 刺突回避を優先して、斬撃の間合いではなくなってしまったが――、

 

「ふんが!」

 と、気合いを発して、勇者らしからぬ一撃を見舞ってやる。

 技名――頭突き。

 火龍の鎧による恩恵で、俺はダメージ無し。

 ――――相手はそうはいかないみたいだが。


「むんぐゥ……」

 痛みを感じないはずのストレイマーターから苦痛の声が上がる。

 人間のように両手で顔を押さえながら後退り。

 押さえるのはいいけど、右手の鉄の爪でダメージ入ってんじゃないのか? と、突っ込んであげたい。

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