PHASE-285【頼れる存在たちが増えていく喜び】
聖女が笑みを湛えて心配してくれる優しさに癒やされる俺。
そんな彼女の胸元には、キラリと光る認識票。
黒色の物ではなく――、白色だ。
「昇進おめでとう」
「ありがとうございます。ひとえにクエストを共にやり遂げてくれた、皆さんのおかげです」
綺麗なお辞儀と共に揺れる栗毛の三つ編みと、白色の認識票。
「
自分の事のように喜び、日が昇ってちょっとしか経っていないのに、祝い酒と言ってガブガブと酒を飲み、自慢の灰色の髭にも酒を飲ませる豪快な飲みっぷり。
ゲッフッと、一帯に酒気をまき散らすギムロン。
呼吸をするだけで酔いそうなほどに度数の強いのを飲んでいるからか、新人たちは顔をしかめて距離を取る。
しかめた表情とは裏腹に、白い認識票は誇らしく揺れる。
今回のクエストにおいて、回復に防御魔法。しかも勇者である俺を危機から救った事が評価を大きく上げたようだ。
俺から言わせてもらえば、それを抜きにしてもタチアナなら昇進して当たり前だけどね。
実力はすでに黒より上の位階だ。
一気に
先生や上の位階の者たちが、クエストの結果から出した評価は、魔法発動においての精神集中の弱さ。そこが指摘対象になったみたいだ。
継戦力が頼りないというのが要因で、白より上の位階を与えられないようだ。
外部マナであるネイコスを集中して発動させる魔法を連続使用するのは確かに苦手みたいだもんな。
そこを克服すれば上に行けるわけだ。
「俺たちも早く上を目指して、今以上のクエストを受けられるようになりたいな」
「だね」
と、リア充コンビ。
この二人の実力も本物。
トロールを倒した時のライの動きと一撃は、体内に取り込むマナであるピリアを未習得であったとしても素晴らしかった。
クオンはなんと言っても魔法持続力が抜きん出ている。
タチアナがもっとも欲するところだろう持続力。
持続させるための集中力は感嘆だった。
戦いが終わるまで、常にファイアフライを発動していたからな。
今回のゴブリン退治を成功させれば、この二人も黒から白に上がるだろう。
差別化を図るために、認識票の個人情報が彫られているところを金色に塗っているのとは次元が違う。
まあ、あいつの立ち回りとスタミナは大いに評価するけどね。
秀逸と言ってもいいが、言ったが最後。あいつは直ぐに調子に乗るからな。
コクリコは自分を抑える忍耐力を身につけないといけない。
身につかない以上は黒から変わることはないだろう。
実力的に黒の俺が裁定しても説得力はないけども。
「さて――――」
「おっ! 目に力が宿っとるの」
「まあな」
俺もこの世界で最強の存在と戦わないといけないからな。
ちょっとどころか全力で気合いを入れないと、やる気が無いと怒られて、スパーン! と、外側広筋に蹴りが飛んでくる。
俺から気合いが溢れているのか、周囲にも伝播したかのように、
自信に溢れた強い足取りだ。
ギムロンは大きくゲップを一つ吐き出して、今まで以上の酒気を一帯に漂わせてから、気合いを入れて叩くかい! って言って、鍛冶屋の方に戻っていった。
皆が俺の気合いに触発されたようだけど、そんな俺は、皆の気合いに触発されて、更に気合いが溢れだしてくる。
――――今までの俺じゃないんだ。
「ベル。俺の力を遺憾なく見せてやるぜ」
トップの戦いが見られると言うことで、周囲はますます過熱し、騒々しくなる。
そんな中、俺は誰にも聞こえない程度の音量で独白した。
――――ちなみに、コボルトに強く当たっていた野良の冒険者さんこと、ドッセン・バーグ氏が俺のギルドに加入した。
ウォリアー職の前衛。
得物はメイス、ショートソード。盾はバックラー。
チェインメイルの上には、リザード系モンスターの鱗からなるスケイルアーマーを装備した、ゴリゴリの近接戦闘を得意とする人物だそうだ。
ベルの威圧を受けた中で、肩身を狭くしていたところに、俺が食事代を出してくれたと知って恩義と感じ、細やかな配慮が出来るトップだと感動してくれたらしく、ギルドに加入しようと決心したそうだ。
俺としてはそんな腹積もりは無かったが、メンバーが増えることはいい事なので、結果的にはよかった。
エースのような一握りの強者よりも、戦いを有利に進めるために必要な存在は、中間に位置する経験豊富なベテランだ。
中間層が厚いことが、組織においてもっとも大事なのだ。
――――と、まんま先生の受け売り。
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