PHASE-1622【守れ谷間】
「ちょっとまっとれ。美人さんの体型に合いそうなのを頼む」
と、近くの女性店員さん二人にお願いすれば、ベルの全身を見る。
途端に難しい顔になるも、小走りで取りに行ってくれる。
冒険者の中には大男だっている。ベルのスタイルに合うのは問題なくあるんだろうが、アレかな。撓わに実った二つの丘の部分で困っているのでしょうかね?
――フフフ。
「どうしたオルト? アホな顔が更にアホになってるぞ」
「なんだと四十路手前! コクリコみたいな事を言いやがって!」
胸のことを想像したら顔がちょっと緩んだだけだ! ってのは口から継ぐことはないけどね。
「ほれ、これを着てみな。初めてなら難しいだろうから手伝ってやってくれ」
「はい」
持って来てくれた二人の女性店員さんと一緒にベルが試着室へと入っていく。
――程なくして。
「どうだろうか?」
「お、おお……」
声を詰まらせてしまう。
「な、なんだ。似合っていないか」
と、なんか恥ずかしそうに頬を赤らめるベルの表情が新鮮なのが最高なのだけども、それと同等に、
「よく似合ってるよ!」
「そうか」
俺の返しに安堵してくれる。
なんだろうか、まるで恋人同士のやり取りみたいで俺いま凄く幸せなんですけども。
今までの白い軍服とは違い、茶褐色の防具を身に纏った姿は本当に新鮮だ。
ボトムも同様の素材。
グローブとブーツは黒革製で、ブーツは膝下までを保護。
そしてこれまた珍しいマント姿。
色は青色。
「普段のよさとはまた違って実にいい! 非常にいい!」
素直な感想が口から溢れ出てしまう。
この俺の発言に、店内にいる他の冒険者に店員さん達も大いに賛同とばかりに強く頷いていた。
「あまりそう見られると恥ずかしくもある」
なんなの。もの凄くベルが可愛いんですけど。
美人よりも可愛いの方が強調されてますな!
でもって、
「そこは隠さなくていいのか?」
「見なくていい!」
「いだいっ!」
久しぶりに俺の外側広筋に鈍痛が走る。
衝撃貫通のベルの蹴り。
装備が変わっても威力に変わりなし!
俺の指摘する部分を恥ずかしそうに隠すが、その仕草がたまらない。
俺だけでなく店内の野郎共の顔はにやけたものですよ。
ガリオンは恐ろしいのか、絶対にそこには目を向けないでいた。
普段は軍服に隠されたベルの胸ですが、現在の装備では雪肌の谷間が見えております。
「眼福ものです。バニーの時を思い出す」
「……お前はあの時の痛みも思い出したいようだな」
「め、滅相もない!」
もう、死を感じる恐怖は御免である……。
あの時は本気で死神の鎌が俺の首にかけられている恐怖を体験したからな……。
他は問題なかったが、胸元を完全に覆い隠すことは出来なかったと女性店員さん。
レギラスロウ氏に頼まれた時、渋面となったのは胸の部分で悪戦苦闘するってのを容易に想像できていたからだろう。
鎧下の準備も考えてくれているが、それを聞くと俺が渋面になってしまう。
このままでいいと思うの。
「ちなみにこの装備一式でおいくら?」
「エントの樹皮による戦闘用鎧型のバーククロス――高いぞ」
したり顔のレギラスロウ氏。
「俺の手持ちで足りるかな? 鎧下まで出せるかな~」
と、予防線。
見える谷間は死守したいからね!
「円形金貨八枚ってところだが、良い物を見せてもらったからな。半分の四枚でいいぞ。そんでもってマントとグローブ、ブーツはサービスしてやる」
おう、お安くなっても円に換算して四十万か……。
思いの外、高かった。
谷間死守とか考えていたけども、単純に四十万円ってのは十代の俺には大金。
金は持っているけども、だからといって四十万は高額……。
サービスで半額にしてくれたうえに、他の装備をいただけるのはとても有り難いが……、
「あまりにも高価なら私は元の軍服に戻るが」
「いや! 出す! 俺も男だ。円形金貨四枚くらいポンと出してやる!」
雑嚢から巾着袋を取り出し、そこから四枚レギラスロウ氏に手渡す。
「ご購入ありがとよ。しっかしたんまり入ってんな~。もっと装備を追加してふんだくってもよかったかもな」
「このままで!」
鎧下は無しの方でお願いしたい。
「すまないなオルト」
「問題ないさ!」
谷間を守れるならな!
「俺の時も渋い顔せずに気前よく出してほしかったもんだ」
むさいおっさんと美人とでは差が出るのは仕方のないことなのだよ。ガリオン。
「でも樹皮だからね。もしなんかあった時は火には気を付けないとな」
「心配無用。エント族は確かに火を苦手とするが、そこいらの装備よりは耐火性は優れている」
と、レギラスロウ氏。
それなら安心。
そもそもベルには攻撃が当たらないから心配する必要もないけどさ。
「よし! ベルの装備も整ったことだし、酒場にでも繰り出すか!」
「そいつは良い提案だな」
なぜか乗り気のレギラスロウ氏。
「同行するつもりですか?」
「ドワーフの前で酒の話をするのが悪いってもんだ」
うん。ドワーフ然としている。
「ここいらの酒場なら大通りにあるハマードってところがおすすめだ。安いが良い酒を出してる。肴もいいのがあるし、ちゃんとした食事も楽しめる」
ドワーフが良い酒と言えば信頼は出来るが――、
「別に俺達は酒を楽しむために行くわけじゃないんで」
「酒場に酒の用がないとは此は如何に。何かあんのかな?」
柄を見ただけでギムロン作だと看破してくる審美眼だけがこのドワーフの眼力ではないようだな。
色々と察するの能力も高いようだ。
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