PHASE-771【やらせを演出って言うの禁止な!】

「そしてここにひかえる我が主。勇者、遠坂 亨様は一騎当千を従える国士無双。その奇跡をその目に焼き付けなさい」


「さあ勇者様。出番ですよ」


「うわ~。すっごく楽しそうに近づいて来たよ……」

 ここで奇跡を振ってきますか……、先生……。

 でもってゲッコーさんが直ぐさま俺の後ろに立つっていうね……。

 ハンドグリッパーみたいな起爆装置も手にして準備万端のようだ。


「お願いですから勇者様。今回は切っ先だけを向けるなんてつまらない剣舞はやめてくださいね」


「腹黒な指揮官様ですね」

 背中越しにゲッコーさんに返しつつ――、


「はぁぁぁぁぁぁ……」

 重い溜息と共に肩を落とし、気怠く抜刀。

 ――勇者が抜刀。この光景に相手側の動揺は恐怖に変わってくる。

 しかも脱力感からの抜く姿が達人的な所作に見えたようだ。

 いいね。俺の強さを勝手に勘違いしてくれてさ。

 恐れてくれるなら、その恐れだけに傾倒してくれるとありがたいね。

 これから見せる俺のへっぽこ踊りは見ても記憶に残らないでいてほしい。


「刮目なさい。これより始まる奇跡の舞を!」

 なんでそこで更に大仰にするんですかね……。先生……。


「ええいままよ!」

 残火を諸手で搾るように握りしめ、まずは上段から一振り。


「もっとダイナミックに!」

 特効と言うより演技指導のポジションのようなゲッコーさんの言を聞き入れて、ラピッドを発動。

 刀の振りとしては全くもって理にかなっていないとんぼを切ってからの連続跳躍に、捻りを混ぜた前転と後転をいれつつ、あえてマントを大げさに靡かせて残火を振っていく。

 ――…………これあれだ。アメリカなんかの間違った日本剣術の剣舞みたいだ……。

 派手さばかりが評価対象で、まったく理にかなっていない剣舞という名の創作ダンス! ってテレビに向かってツッコんでいた時の俺が、今の俺を見ればどんな罵声を浴びせることだろう……。


「はいぃぃぃぃぃぃぃぃい!」

 悲しくなってきたので、とりあえず大きな声を出して誤魔化しつつ、いい加減、笑ってないで起爆しろや! と、目で訴えかける。


「ふ、ふふ――。いくぞ」

 肩を震わせて笑いを堪えるおっさん。俺がダイナミックな動きから切っ先を向ければ、それに合わせて絶妙起爆。

 ボカンと大きな音と共に、糧秣廠の壁部分が大きく爆発。


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 先生の奇跡発言からの、俺のちんけな踊りによる爆発。

 これが奇跡と理解した兵達は、とうとう恐怖に堪えることが出来なくなったようで、たった一度の爆発で陣形が無惨に崩れていった。


 次々と恐怖が伝播し、一人が三人、三人が十人と一気に逃げ出す人間が増えていき、タワーシールドがバタバタと音を立てて倒れていく。

 盾を手にしていた者達が逃げ出せば、盾に守ってもらっているから槍衾の陣形も保てているという考えもあったんだろうが、戦場で命を預ける為の盾が機能しなくなれば、次には長槍を投げ捨てて後退。

 弓兵と魔術師もそれに続く。


 爆発が起こった防御壁はまだ健在だという事もあり、糧秣廠の壁上に残ってこちらを窺う者達もいる。

 でもいるだけ。バリスタや弓、クロスボウで俺を狙うものはいない。

 魔法を使用する者達も俺を狙わず窺っているだけ。

 報復としていつ自分たちに切っ先が向けられるか分からないから攻撃が出来ないでいる。


 魔大陸にまで足を進め、魔王軍と戦った勇者。

 現在の状況下において、人間がそれだけの事をやってのけることは正に奇跡。

 だからこそ四大聖龍リゾーマタドラゴンの加護を受け、奇跡の御業を扱うことが出来るのだろう。そして自分たちはそんな存在と対峙している……。

 きっと心底ではそう思っていることだろうね。

 

 俺が目を動かせばある場所の者達と目が合う。

 それは防御壁のタレット。防御壁において攻撃に特化した場所だ。

 だからこそ次はそこが狙われると判断したのか、タレット内の兵達が急ぎそこから離れていくのが見えた。


「ならば」

 リクエストにお応えして、高い跳躍からクルクルと回転しつつ着地し、タレットに切っ先を向けると直ぐさま爆発。

 防御壁から張り出した、木製の壁に覆われた小さな塔は、木っ端を舞わせながら大きな軋み音と共に倒壊。


 これを壁上で見ていた者達は顔面蒼白。

 反対に俺は顔面真っ赤。

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