PHASE-772【特効の大盤振る舞い】
恥ずかしいから大至急やめたいんだけど、味方サイドで奇跡のタネを知らないメイドさん達からは大きな声が上がる。
「切っ先を向けるだけで爆発」「ネイコスでもピリアでもない不思議な力」「正に奇跡」「流石はトール様」
――などと、背中がむず痒くなる黄色い声が上がってくれる。
リズベッドを救い出した事でメイドさん達の俺に対する尊敬値は非常に高い。
だからこそ些か盲目にもなっているような気もするけどね。
メイドさん以外はS級さん達も含めて口角が上がっているからね。
黄色い声援は気持ちよくもあるけど、それに勝る恥ずかしさによって喜べない悲しみ……。
今にも顔から火が出そうだよ……。
その火を使用して、糧秣廠の木壁を燃やし尽くせるレベルだよ。
「せい!」
とりあえずは大きな声を出して誤魔化す俺。
合わせてゲッコーさんが爆発。
「今度は一気に! キェェェェェェェェェイィィィ!!」
と、裂帛の気合いを猿叫にて吐き出す。
漫画なんかでも良くある描写。
刀剣を地面に突き刺すと、全体攻撃的なのが発動するアレを真似る。
でも切っ先を地面に突き刺す行為は、剣道をやっていた俺としては避けたくもあったので、残火を握ったまま右拳で地面を殴るという動作を選択。
ゲッコーさん、ノリノリで起爆すれば、至る所で同時に爆発が発生。
壁上と廠外にいる者達は混乱。となれば、今ごろ糧秣廠内部は大混乱だろう。
「いいじゃないか」
「出来れば死者が出ないことを祈ってますよ」
「怪我人だけですめばいいな」
そこそこの爆発が各所から上がっている。
マッチポンプな奇跡で人の命を奪うのはなんか違うからな。
奪うならちゃんと手に感触を伝えないとな。それが奪う者の責任だからね。
戦争に身を投じているんだから、命の奪い合いにはしっかりと向き合わないといけない。
だからこそ――、
「こんなんで死なないでくれよ」
発し、ここでだめ押しとばかりに切っ先を糧秣廠の門へと向ける。
派手に木製の門が吹き飛べば、後はあそこへと流れ込むだけ。
ここまでくると、目の前で陣形を立てていた者達も完全に瓦解し、人っ子一人いない。
あまりにも心の弱い兵達だ。俺が転生したばかりの時の王都兵みたいだ。
練度が低いとみるべきか、馬鹿息子のために命をかけてまで戦うものじゃないと思っているからか。
まあ、間違いなく後者かもな。
俺だってあいつのために命をかけて戦いたくないもの。
「さあ! さっさと逃げないとおっちぬぞ!」
威圧をかけつつもう一振り。
追加でタレットを破壊。
「ああ~。あまり破壊しないでください~。我々がこれから使用するのですから~」
抑揚のないわざとらしい言い様の先生。
これ以上の奇跡を発動すれば、糧秣廠ごと中にいる者。周囲の者達が消し飛んでしまいます。と、これまたわざとらしく継ぐ。
だけど効果は抜群。
ただ切っ先を動かすだけで突如として爆発する。
炸裂魔法だろうが何だろうが、発動すれば何かしらが視認できるはずなのに、ただ刀を振るうだけで爆発となると、見舞われる方からしたら奇跡などではなく、絶望と恐怖でしかない。
もう一つとばかりに爆発を起こせば、今度は壁上を抉るような爆発が発生。
初手からそうだったけど、一体、一カ所にどれだけのC-4 を仕掛けてたんだろうね……。
あれだけの爆発なんだからかなりの量を仕掛けているはずなのに、それが発見されないんだもの。
流石はS級さん達と言うべき設置技術。
「さあ、主! 逃げずに残っている気概ある者達がおります」
馬用の鞭を手にした先生が壁上にそれを向ける。
――……あれは気概があるのではなく、恐れ戦いて動けなくなっているだけでしょうね。
分かって言っているんだろうけど。
「さあさあ、あの者達に名誉ある死を! 派手に爆発させ血肉の花火としゃれ込みましょう♪」
伯爵と違って、それが無理だというのは分かっているでしょうに。なのでゴア描写はないですよ。
先生の明るい声音による発言から直ぐ――、壁上に動きがあった。
動けなくなった体だけども、生に縋りたいという思いが勝ったようで、生まれたての子馬のようなガクガクな足を必死に動かし始めるのを見やる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます