PHASE-773【吠える? 鳴く?】
こちらからは廠内は見えないけども、下へと続く階段を今ごろ転げ落ちるようにしておりているところだろう。
早い者達は糧秣廠から出て、着の身着のままな姿で馬に跨がり、麓の方へと遁走しているのも見える。
糧秣廠の四方の門も同時に開かれ、そこからも必死になって自らの足で逃げ出す兵士たちもいる。
手には武器を持たず、少しでも軽くしたいからか、鎧にその下に装備するチェインメイルも脱ぎ捨てており、布の服だけの姿で駆けだしている。
ここで従事している人足さん達と変わらない格好だな。
「ふむふむ、中には沢山の武具に兵糧が残っているでしょうね。烏巣の兵糧庫のように焼かなくて良かったのは最高の戦果です」
「官渡の戦いですね」
「そうです。
焼き払わなくてよかったもんね。
根こそぎいただける分、先生が言うように最高の戦果だろう。
「さて早速、糧秣廠にお邪魔しましょう。防衛もしないといけませんしね」
流石にこの人数で万を超える兵達を動かす兵糧を運び出すのは大変と言うことで、この拠点を占拠してライム渓谷側と動きを合わせるということみたいだ。
「念のためだ」
もしかしたら抵抗もあるかもしれないからと、ゲッコーさん自らがS級さん達と共に先んじて糧秣廠内を偵察。
光学迷彩を使うことなく、武装した状態で開いた門から入っていく。
――ストライカーやJLTVを盾としながら。
鋼鉄の箱が突入。ああなると残された者達は、抵抗をする気力も湧かないだろうな。
普段はMASADAなんだけど、S級さん達がタボールを装備しているからか、ゲッコーさんもタンカラーのタボールに合わせていた。
――――程なくして壁上からのサムズアップ。
俺たちは悠々と糧秣廠へと入って行く――。
中ではS級さんの数人がストライカーの周辺に集まり、ドローンで廠内全体を上空から偵察、逃げ遅れた者達を探し始める。
ストライカーはM1130の指揮車。
先生がおもむろにその中に入って行く。
てことは、車内かその周辺がこの戦いにおいて、先生が腰を下ろす場所って事になるんだろうな。
「現在、この廠に逃げ遅れた兵もいますが、それ以上に人足の者達が取り残されています」
指揮車より先生が顔だけを見せてくる。
残った者達も、今のところ抵抗する素振りは見せてこないようで、制圧要員のS級さんやメイドさん達に従っているようだ。
こちらは少数だが、強大な力を有していると認識したのはいいことだ。
マッチポンプ爆発での死者は、確認した限りでは出ていないとのこと。
爆発による破片なんかで怪我を負った者もいるそうだけど、メイドさん達が直ぐさま行動し、回復魔法を行ってくれる。
ほぼ無血と言っていい状態で拠点を手に入れる事が出来た。
しかも馬鹿息子からしたら重要な拠点を……。
こんなにも簡単だと罠なのかと勘ぐってしまうけど、先生が余裕で色々と指示を出しているあたり、そんなものは無いんだろうというのは分かる。
――!? 少し離れたところより叫び声が上がる。
位置からしてメイドさん達が治療に当たっているところ。
声は野太いからメイドさん達ではない。
どうしたのかと直ぐさまそこへと赴けば、屈強な兵士が美人メイドに取り押さえられていた。
「これは?」
「トール様」
と、押さえ込んでいる美人メイドさん曰く、倉の中に潜んでいたそうだ。
治療を行っているところを隙と判断したようで、襲いかかってきたらしい。
で、簡単な足払いからの拘束ということだ。
「あのね。こっちは抵抗しないなら乱暴にはしないから。抵抗はやめて指示に従ってくれ。殆どが逃げた中で雄々しさを見せるのは大したものだけど」
「黙れ!」
と、向かい合う方向とは反対の方から怒鳴り声。
他にも倉の中に隠れていたようで、抜剣したまま俺へと猛然と迫ってくる。
次にはズンッと重々しい音と共に、抜剣していた兵士が地面にうつ伏せ。
懸命になって脱しようとしているようだけど、どだい無理というもの。
「に゛ぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「ひぃぃぃ」
象サイズのマンティコアが大口を開いて吠える――というより鳴くってのが正しいのかな?
まあとにかくチコが威嚇を行えば、抜け出せない兵士は剣を手放して戦意喪失。
手を合わせて許しを請う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます