PHASE-1091【有り難くぶんどります】

「ともあれ、得意な弓を中心とした戦いをされずによかった」

 戦闘後にもう一度エントランスホールを見渡す。

 二階へと続く階段に踊り場。

 この広さだと十分に弓を主体とした備えも出来たんだろうけどね。

 

 もっと弓と魔法を併用した波状攻撃をしてくれば、こっちは脅威を受ける事になったんだろうけど、そういった脅威はなかった。

 特に私兵の勢いが最初だけだったからな。

 接近戦に持ち込めば連携もギクシャクだったし。

 整然とした行動で応じてくれば、本来、弓の名手で魔法に精通したエルフの遠距離攻撃を掻い潜って接近というのは難しいはずなんだけどな。

 

 私兵の場合は接近されれば一気に尻つぼみ。で、遁走。

 踏みとどまって意地を見せた正規兵だけが株を上げた。


 余裕を持って出迎えていた初手の段階でダメダメだったんだよ。


 それもこれも――、


「お前がイキるからだぞ」

 白目を剥いて前歯が寂しくなっているテイワイズの側にて、蹲踞の姿勢で語りかける。

 反応は返ってはこない。

 一応の警戒のために、白目を剥いている相手であっても神経は研ぎ澄ませているけども――ピクリともしない。

 

 いやはや。私兵を束ねる存在――しかもハイエルフだってのにサブマリンアッパーのワンパンで戦闘不能になるってどうよ。

 長い時を過ごしてる間に何をしてたんだ?

 自分には永遠ともいえる寿命があるから、鍛錬は明日から頑張るって感じで過ごしていたのか?

 明日になればまた明日がんばるって言い続けて、適当に過ごしてきたのか?

 そんな考え方だと、地下王国E班担当である班長にバカだからねぇって嘲笑を向けられること間違いなしだな。


 なんで強者を気取る奴ってのは、態度と実力が比例しないんだろうな。

 数による優位性で気が大きくなったんだろうが、悠々と自己紹介なんかする暇があったなら、今度からはしっかりと隊列を組ませた弓兵を配置しとけよ。

 俺が話し合いに来ただけだと想定していても、そこは配置しろ。

 実際、自分で戦いの火蓋を切ったんだからな。


 で、このざまぁ~。


「なので罰として鞘は没収させていただきます。俺のエドワードが抜き身のままだと風邪をひくからね」

 まあ言ったところで聞こえもしてないけど。

 以前にもブルホーン要塞で、断空って二つ名からバニッシュリッパーを奪った事があるから、倒れている奴から鞘を外すのは熟れたもんだ。

 スキル【ハゲタカ】を獲得した。と、好きな声優さんで脳内再生。

 

 鞘を手にして我が愛剣となったエドワードを収める。

 右側にはライノのホルスターがあるから、今回は残火と共に左の腰に佩く。

 今度ゲッコーさんにお勧めのレッグホルスターを選んでもらおう。


「んじゃ、戦利品もしっかりとゲットしたから先へと行きますかね」

 ――二階からその先へと続く扉をエルダースケルトンがカイトシールドを前面に展開しつつ開いてくれる。

 眼界には真っ直ぐに伸びた長い廊下。

 で、廊下の奥側では先ほど逃げたであろう数人の私兵達が廊下に留まっており、設置された長椅子をバリケードとし、その後方で矢を番えて鏃を向けてくる。


「そうそう。そうやってしっかりとロングを活かす戦い方をしないとな」

 言いつつ廊下を進む。


「ここから去ることを勧める」


「こっちはそちらから招待を受けたんですけど」


「去らねば攻撃するぞ」

 なんて言うわりには弦を放せないようだね。

 一度逃げてしまった者達による迎撃。

 態勢を立て直すだけの士気は回復していないようだ。

 そっちの都合がどうあれ、鏃を向けている時点でこっちは遠慮はしない。

 向けても放つことが出来ないなら、遠慮なくそこを隙とさせてもらう。


「アクセル」

 で、一気に接近。

 バリケードを乗り越えて、矢を放つよりも驚くことに意識が傾倒している私兵たちに拳を見舞ってダウンさせていく。


「練度もそうだけど、コイツ等には戦いに対する覚悟がなさすぎる」


「仕方ないよ。殆どが実戦経験がないからね」


「でも三千年前の騒乱を経験はしているだろう」


「今の兵士達は私と年齢がそんなにかわらないのばかりだから」

 ――――ああ。

 二千歳くらいってことか。だったらそれより前の戦いは経験したことはないか。

 その後の三千年間は、この国では戦いは起こってないんだろうし。


「はあ……」


「どうしたのトール?」


「なんか二千年だ三千年だと考えてるとしんどくなってくるんだよ……」

 寿命が規格外すぎるんだよ……。


「まあ騒乱の時を経験している者達もいるんでしょうけどね~。いかんせん三千年前だから」

 小馬鹿にするリンの語調。

 言わんとしていることは分かる。

 騒乱で活躍した者達もこの中にはいたかもしれないけど、その後の三千年の間に鍛錬を怠れば当然、腕前は落ちていくからな。


「やっぱルミナングスさんと部下の方々は偉いね。武の鍛錬だけでなく学においても研鑽を怠らないんだから」

 ルーシャンナルさんなんてゴブリン語を話せるし。


「他の連中もこういった方々を見習うべきだね」

 と、継ぐと、

 

「当然でしょ」

 父親とその仲間達が褒められるのは嬉しいようで、シャルナは自慢げに胸を張っていた。

 コクリコと違ってしっかりとボリュームがあるのはいいですな。

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