PHASE-689【爪の準備願います】

「それに言っていた事も本当だったから」


「言っていた事?」

 疑問符で返せば、すっと俺を指さすイルマイユ。

 向けられた食指が体に沿って動く。

 理解したので、


「だろ!」

 短く返し、とくとご覧あれとばかりに、胸を張って火龍装備を見せ、首にかけた紐部分に拇指を沿わせて、地龍の曲玉も前面に出してから見せてあげる。

 侯爵から借り受けた装備は何事もなく返却。ちゃっかりと回復薬なんかは貰ったままのセコい俺。

 で、本来の俺の装備でイルマイユとご対面。

 四大聖龍リゾーマタドラゴンの二龍に認められた存在ってのが大きな信頼にも繋がったようだ。

 いずれはイルマイユの信頼が俺個人だけで得られるように絆を強めたいね。


「じゃあこの広間なら問題ないでしょうからドラゴンの姿に――」


「おはよう」

 リンの発言を故意ではないが遮ってしまったベルが入室。

 それに続いてパーティーの女性陣と頭をおさえるゲッコーさんが入ってくる。

 如何に伝説の兵士であり、どれだけ酒に強かろうとも、しこたま飲めば二日酔いには勝てないらしい。

 現状、それだけこの地が安全って事だろう。ゲッコーさんが二日酔いになれるくらいには。


「いいタイミングで皆がそろったね」


「何かおもしろいことでもするの?」

 好奇心旺盛なシャルナは長い耳を振りつつ問うてくる。

 これからミストドラゴンの爪をちょっとだけ頂くと説明すれば、


「伝説のドラゴンをこの目で見れるなんて」

 と、二千年近くの時を過ごすハイエルフが興奮するくらいにレアなようだな。

 おかげでイルマイユが怯えている。


「ちょっとおばあさま。興奮すると血圧が上がりますよ」


「はぁ!?」

 ダンジョンではリンとコクリコの凸凹コンビだったけども、ここでは凸凸コンビだな。

 どうしても胸の部分で比べてしまう俺。


「はいはい。静かにする」

 場を締めるように俺が手を叩いて凸凸コンビの間に割って入る。


「じゃあイルマイユ。よろしく」


「うんと……」

 ありゃ、やっぱりシャルナが原因で怯えちゃったかな。

 俺が優しく見守ってやらないとな。


「ほらいいから。ね。見せてごらん」


「変態ですか!」


「ぎにゅ!?」

 怒号のコクリコが、あろうことか俺の頭を強制的にイルマイユより反らせる。

 背後から両手で顔を挟んでからの捻りだった。

 首の辺りからゴキゴキと音が響く。


「なんだコクリコ! 俺を殺す気か!」

 アサシンみたいな事をしてきやがって!


「トールの発言が危なすぎます」


「何処がだよ! ドラゴンになるとこ見るだけだろうが」


「アホですか! 地底湖でイルマイユが擬人化した時を思い出しなさい」

 ――…………!?

 ――……うん。そうだな……。

 というか、その事をさっきリンと話したばかりだったのにな……。


「ごめんなさい」


「分かればよろしい。ゲッコーと一緒に反対側を見ていなさい。ベルはゲッコーを見張っていてください。いかんせん温泉での前科がありますからね」


「今からの始まる事の全貌を理解しているわけではないが、コクリコの発言で理解した」

 男二人とイルマイユの間に軍神様が腕組みでの仁王立ち。

 俺としてはそれで強調される、白い軍服に包まれたロケットおっぱいの方が興味あるんだけどね。


「俺は幼女には興味ないんだがな」

 と、ゲッコーさん。

 幼女っていっても、俺たちより遙かに年上ですけどね。


「そういう事ではないのですよ。前科持ち殿」


「ベル……その言い方やめてくれ。古傷がうずく……」

 あの時は伝説の兵士が思いっきり殴られて、情けない声で謝罪してたっけ。

 気の強い女性陣に従って、男二人で仲良く窓から外の風景を楽しむ。

 後ろなんて絶対に振り返らない。

 見えてなくてもベルの視線と闘気がしっかりと背中に届いている。少しでも妙な動きをすれば絶対にしばかれるルートだ。

 ――外を見ている間にも、衣擦れ音だけはしっかりと耳朶に届くからね。変に緊張してしまう。

 

 ――少しのしじまの後、


「ワァオ!」

 アメリカ人みたいなリアクションなのはシャルナ。

 興奮と喜びが入り交じっている。見えないが、長い耳が大きく上下に動いているんだろうな。

 この声が合図となって、男二人も百八十度回頭する事を許される。

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