PHASE-690【名前負け】

「やっぱり綺麗だよな」

 ビジョンもあればファイアフライのタリスマンによって明るくなった地底湖でも目にはしたけども、霧もなく、窓から陽が射す場所で見ると格別。

 陽の光を反射させ、美しい白い鱗が更に際立つというものだ。


「輝くような白だな」


「洗剤のCMみたいな感想ですね。ゲッコーさん」


「実際にそうだろう」

 まあね。本当に純白ってのはこういうのをいうんだろうな。


「ではトール」


「おう」

 保護者のようなリンからの了承を得て、イルマイユへと接近し、片膝を突いて中腰になる。


「怖いのは嫌だから……」


「任せろって。深爪なんかしないから」

 無駄に時間をかけるより、スパッと切れる残火を使用。

 ナイフなんかよりも刀身が長いから目にするイルマイユは及び腰。

 ドラゴンにだけ分かるであろう火龍の威光を感じているから特にだろう。

 及び腰になられると、急に前足を動かしたりする可能性もあり、切らなくてもいい部分まで切ってしまうって考えると緊張もする。


「安心してくれよ。動くと怪我をするから」


「うん……」

 ドラゴンとしては小型の馬サイズとはいえ、人間からしたらデカいので見上げて問うときの迫力はなかなかだ。

 あまりじらすのは良くないので、一つの爪の先端に刃を当ててから、力を入れずに腕を動かせば簡単に切ることが出来た。

 水色の水晶のように綺麗な爪。加工すれば宝石のようにも見えるだろう。

 切った後、痛みを覚えたような声を出さなかったので胸をなで下ろす。


「よし。これで足りるよな」


「十分よ」

 残火を収めて立ち上がり、


「ありがとうな」

 典雅な一礼を持って、ミストドラゴンの爪を頂いた。


「じゃあイルマイユが擬人化するから男達はもう一回、外の景色を楽しむように」

 爪を手に握って、リンに従い再び百八十度回答。

 今度は窓から景色を見るのではなく、水色の水晶の様な爪を眺める事にした。

 俺の掌に乗っかる爪の長さは小瓶くらい。不思議と中は空洞だった。


 ――擬人化から着替えを終えたイルマイユにもう一度お礼を言って、


「で、後の素材はあるんだよな?」


「バッチリと残りはあるわよ」


「どんなのなんだ?」


「アプサラスの朝霧の雫。アイガイオンの海塩。トリックスターの弟切草。タイタニアの玉章たまずさの四種。これにミストドラゴンの爪を入れて全て揃う」


「イルマイユには悪いけど、名前負けが……」

 なんか残りのは絶対に高難易度のような気がしてならない。


「失礼な男ね」

 グサリとリンの台詞が胸に刺さる。

 ミストドラゴンには申し訳ないとは思っているんだけどね。

 他の素材の名前が強うそうなんだもの。トリックスター以外。


「トールの言っている事は正しいよ」

 ここで援護射撃は当の本人であるイルマイユ。


「ま、そうなんだけどね」

 と、悪戯じみた笑みのリンが続く。

 残りの四つの素材を集めるとなると、現状の俺の実力では、今回みたいにコクリコと二人での採取となれば間違いなく無事では済まないし、回収も不可能って事だった。

 無事では済まないってのはオブラートに包んでいるんだろうな。

 実際は死ぬって事なんだろう。

 

 昔の冒険者たちがミストドラゴンを狩る要因になったのも、これらの素材の中で攻略難易度が低かったからだそうだ。

 結局それ以外を集めるのが困難だからエリクシールは伝説的な霊薬なわけだ。

 シャルナのような長命のエルフでも見る事は稀なんだからな。

 ミストドラゴン達は無駄に乱獲されたようなもんだ。

 後先を考えていない昔の冒険者たちに、余計に憤りを覚える。


「ちなみにベルやゲッコーさんが採取に参加するとなると?」


「ぬるい。ぬるすぎる事になる」

 そうか、分かってはいるけども、俺やコクリコのレベルはチート二人と比べて未だに天壌の差って事か……。

 ――頑張ろう。と、本気で思えた。


「じゃあ爪をこっちに」

 キラキラと宝石のように輝く爪を両手で丁寧に持ち、リンへと手渡す。


「ちゃちゃっと作るわね」


「そんな簡単なのかよ」

 しかもこの場で直ぐにって感じだ。

 確か大魔法なんかも使用してから作るって話だったような。


「オムニガル」


「は~い」

 玉肌のポルターガイストの少女が、無遠慮に床から出て来る。

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