PHASE-691【ゲットだぜ!】
ポルターガイストのオムニガルが両手でかかえている小瓶。
色は様々。数は四本。
液体もあれば、顆粒もある。
四本。ミストドラゴンの爪以外の超希少素材の種類も四。
つまりは小瓶に入っているのがそれらという事だろう。
オムニガルから渡された小瓶を広間の長テーブルに無造作に置いていくリン。
「そんな適当でいいのか?」
「いいのよ。何度も作っているんだから黙ってなさい」
まあ、知らない俺は黙って見てますよ。
皆も口を開かないで見てるし、特にシャルナが興奮気味。
美人が台無しなふんす! と大きい鼻息だ。
やはり霊薬であるエリクシールが出来上がる工程は、エルフにとっても貴重な体験のようだ。
二千年近くを生きるエルフが貴重な体験となると、俺たちみたいな人間にとっては、奇跡の邂逅とでも例えるべきイベントなんだろうな。
全てをテーブルに置けば、慣れた手つきでリンが右腕で横一文字。
直ぐさまテーブルの上に置かれた超希少素材の周囲にいくつもの魔法陣が現れ、左腕にて縦一文字。
今度は小瓶の直上宙空に魔法陣が展開。
大きな円から枝分かれするように、シンメトリーで魔法陣が増えていく。
葡萄の房みたいな形を作っていく魔法陣。
「魔獣であり神獣。彼の者を捉えるは
――――詠唱を唱え、区切る度にリンの足元から魔法陣が展開し、区切り一つで円形の魔法陣が顕現。更に一つで一回り大きな魔法陣が展開されていく。
穏やかな水面に石を投じた時に生まれる波紋のように魔法陣が広がる。
「凄い……」
コクリと、シャルナが喉を鳴らす音がしっかりと俺の耳朶にまで届く。
コクリコはあわあわとしている。見たことのない規模の魔法陣に脳が追いついていないようだ。
さらの魔法陣はリンの胴部分にも顕現し、青白い輝きからなる胴部分の平面魔法陣は、半球状の立体魔法陣に変化。
リンの上半身を包むドーム状となった魔法陣の至るところに、神聖文字が現れては消えていく。
「――瑞宝振れよ。揺蕩え神事の玉。布留部、由良由良止、布留部――――インペリアル・シール」
テーブルに置かれた素材が声に合わせてカタカタと震えだし、小瓶の中身がテーブルに溢れだしてくれば、中央に置かれた爪へと集まりだし、液体と顆粒が混ざり合い粘度のある液体へと変わっていく。
でもそれも一時。ドロドロだった液体は時間が経過すればサラサラなものへとなる。
液体は生を宿しているかのように爪へと纏わり付けば、小瓶サイズの爪の中へと入り込んで行く。
「どういう原理?」
魔法に対して、原理がどうこうなんて考えては駄目なんだろうが……。
意思があるように思える液体が爪の中に全て収まる。
爪が空洞だった理由が分かった気がした。
「――――ふぅ……。はいできた。どうぞ」
「お、おお」
栓をした爪を渡される。
イルマイユの爪が小瓶代わりのようだ。
この爪に封じる事でエリクシールは力を保つことが出来るそうだ。
ミストドラゴンの爪だけが、これらの素材の効能を留める力があるという事も乱獲理由の一つだという。
「本当に馬鹿らしい! 伸びるのを待ってから切らせてもらえば良かっただけじゃねえか! なのにむごたらしい事をする!」
欲にまみれて、効果もなければ実証もされていない他の部位欲しさに乱獲とか!
しかも残りの四つの超希少素材を集める力はないときている!
憤りを感じていたが、とうとう昔の冒険者の馬鹿さ加減に吠えてしまう。
リンが人々の前からいなくなったのも分かるってもんだ。
俺だって同じ立ち位置なら、リンと同じ選択をする。
「勇者の貴男がそうやって変わらないでいてくれれば、少しは良くなるのかもね」
「任せろ! そんな連中が出てきたらボコボコにしてやるさ!」
これにはイルマイユも安堵の表情になってくれる。
にしても、
「作ってもらってなんだが、失礼だと重々承知して聞くけど……毒じゃないよな?」
恐る恐る上目づかいで問うてみれば、
「どうかしらね」
なぜそこで悪戯じみた笑みを湛えるんだ。
毒と思ってしまったのは、爪の中身が紫色の液体だから。
紫の液体で毒をイメージするのは、俺の脳内がファンタジー脳だからかもしれないが――、
「シャルナ」
ここは目にしたことのある人物にも意見を聞くのが一番。
「間違いなくそれはエリクシールだよ! 凄い! 出来上がるところ初めて見た!」
現物は何回か見たことがあるシャルナでも、製作工程は初めてだったらしい。
興奮しているようで耳を上下に激しく揺らしている。その勢いで空が飛べそうですね。
だがシャルナがエリクシールと言うのならば本物と立証された。
もちろんリンの事は信じてましたけども。
とにもかくにも――、
「エリクシール、ゲットだぜ!」
死んでさえいなければ、どんな怪我、病、呪いからもたちまち回復させることが出来る奇跡の霊薬を手に入れた。
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