PHASE-1007【改易】

 ドルカネス伯爵は宣戦布告の後、自分を陥れたロブレス伯爵のネアシス領攻撃のために進発。


 だが、既に最後通牒の段階だったこともあり、爺様たちは即応するためネアシス領まで出兵していた。

 各領地より募った総勢五万になる正規軍の素早い展開。


 こうなるとごろつきや悪党の類いは恐れ戦き、正規軍からなる大軍を目にして直ぐさま逃げに転じたという。

 また悪党達は逃げる最中にクガ領において略奪を行い、それによって領民たちの中に芽生えた恨みは、無謀にも開戦の道を選んだ領主であるドルカネス伯爵に向けられる事になった。

 

 これによりドルカネス伯爵の軍勢の士気が下がり、進発の足が鈍ったことでネアシス領に足を踏み入れるよりも先に、正規軍のクガ領進行を許してしまう。

 ドルカネス伯爵は直ぐさま防衛線の構築を行い、自身は屋敷がある中心都市まで下がることになった。


 クガ領内では正規軍の進行を領民達が歓迎し、協力するまでになってしまい、これを見た私兵の一部も戦いにならないと判断したそうで、砦の門を開いての投降が相次いだ。

 瞬く間にドルカネス伯爵は力を失ったのである。


 ここで好機と、一気呵成に私兵を突き動かしたのがロブレス伯爵。

 自身の邪な考えを払拭させるとばかりに活躍し、ドルカネス伯爵をクガ領内で追い込んでいき、ついには討ち取って功績一位とまでなったそうだ。

 

 爺様はロブレス伯爵のこの活躍をもって責任を追及する事はなかったという。

 だが爺様もしたたかなので、功績一位であったが、今回は双方の我欲が原因という事から改易の回避を褒賞とし、その条件をのませたという。


 この内容に対してロブレス伯爵の表情は千変万化であり、未だにその顔を覚えていると爺様は語っていた。

 納得がいかないような表情。

 不満から怒りの感情が漏れていた表情。

 一番印象的だったは、領土安泰に胸をなで下ろした安堵の表情だったそうだ。

 

 この反乱移行、ロブレス伯爵はあまり欲深な事は考えず、自領を治める保身にだけ力を注いでいったということだった。

 如何にも小者だというのが話だけでも分かる人物である。


 そんな小者でも五等爵第三位の伯爵なんだからな。

 世襲制ってことなんだろうけど。

 この世襲制ってのは、時が下れば段々と駄目になっていく印象だ。

 世襲であっても権力に胡座をかかず、常に己の研鑽を積むような考えに誘導するのが公爵としての仕事でもあるな。


 ミルド領には意識改革が必要――ってそれは済んでるか。

 湖のデモンストレーションの効果は抜群だったから、各地の領主たちもいい方向へと邁進することを信じたい。


 ――――そしてここからは語り手が爺様からマジョリカへとなり、マジョリカ側の視線による話を聞かされた……。

 

 ドルカネス伯爵が討たれた後、謀反の罪により残された一族は改易となってしまった。

 族誅にしなかったのは爺様の慈悲だったんだろう。 


 だが改易後の話は重たい内容だった……。


 ロブレス伯爵に恨みを持つのも分かるし、軍を動かした爺様に強い恨みを持ったことに一定の理解もした。

 このミルド領で暴れ回っていたのも、意趣返しのようなものだったんだろう。

 

 反乱を起こした父親は最終的にロブレス伯爵により討たれが、その時、抵抗せずに投降すれば一族の運命は変わっていたかもしれない。

 だが隣領のロブレス伯爵の妬み嫉みが戦いの起因となったという怒りから徹底的に抵抗し、周囲の兵が討ち取られ、一人になりながらもドルカネス伯爵は刀を振るい続け、孤軍奮闘の中で死んでいったという。


 この時、家宝であるまたたきがロブレス伯爵によって奪われ、ゴテゴテのデザインからなる刀装に変えられたそうだ。


 改易となったドルカネス伯爵の一族は、俺がラノベなんかで目にしている没落貴族と同じような結末をたどっていた。


 なんの苦労も知らない生活を送っていたマジョリカの母親は、庶民の営みに馴染むことが出来ず徐々に心が壊れていき、現実逃避のためか、あるモノに手を出してしまう。

 あるモノとは、元自領であったクガ領の大きな財源となったベルセルクルのキノコ。

 これを食し、狂乱状態になった母親は、最後には大通りの中で哄笑しつつ自らの命を絶ったという。

 それを目の当たりにしていたマジョリカはまだ学童期の年齢だったそうで、財産だけでなく両親も失い、一族の行方もしれないまま一人となり、守ってくれる者がいない状況下で町中にて人買いに買われるのではなく、連れ去られたという……。

 

 この辺りの話から、うちの女性陣は怒り心頭となり、マジョリカ達の行いは許されないと前置きをしつつも強い同情の念を抱いた。

 当の本人は同情される事を嫌がっていたけども。

 素直に称賛を送っても侮辱ととらえるのと同様に、同情も侮辱されていると思うようである。

 その様な捻くれた思考になったのも、この後の人生が原因だったからだろう。

 

 人買いによって売られた先は、想像通りの娼館だった。

 それも場末の娼館だったそうだ。

 娼館にもルールはあるという。

 この世界でも真っ当にそっち方向で商売をしている者達は、学童期の少女に客の相手をさせるということはしないし、そもそも雇うこともしない。


 でも、そのルールを破るところも当然ある。

 ルールを破れば営業停止に捕縛といったデメリットも生じるが、メリットもある。

 マニアックな変態なんてのはどの世界にも共通しているもの。

 需要があれば供給が生まれる。

 需要に対して供給が少なければ少ないほど価値がでてくる。

 その価値こそがメリット。

 

 メリットを生み出すのに適したのは場末。

 場末であるからこそ役人達の目につきにくい。

 だから変態権力者たちはそういった所を利用するのだそうだ。

 

 場末ではあるが権力者を迎え入れるからか、店の中は絢爛豪華。

 店主は店内に見合うだけの贅を極めた服で着飾る程に余裕があったという。

 

 変態貴族や変態素封家などを相手するということもあって、商品となる者達もそれなりのもので着飾っていたそうだ。

 

 美しく着飾ることは出来ても、心には大きな傷を負っていく者達が多かったとマジョリカは語ってくれた……。

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