PHASE-1008【疲労】

 マジョリカが初めて男を相手にしたのは十一の時だったという。

 それを聞いた時点で、こっちの女性陣は不快になるし、当然、俺たち男性陣も不快になるというものだ。


 ゲッコーさんや同席していたS級さん達は、ゲーム内にて少年兵に戦闘を行わせる組織に強い嫌悪感を持つというシーンもあるからか、学童期の少女に男の相手をさせるという事を聞けば、体全体から氷のような殺意がダダ漏れになっていた。

 普段なら押さえ込む感情だけども、抑える事が出来なかったようだ。

 出来なくて当然ではあるけどね。


 学童期に様々な男達に人形のように扱われたマジョリカにはトラウマだけしか残っておらず、十代半ばに差し掛かる頃には、髪の色はブロンドから艶のない白髪になってしまったという。


 ラノベでも没落した貴族の女性たちが、男達にいいようにされるっていう流れは地の文なんかで目にすることはあるけど、基本オブラートに包まれた内容だったりする。

 だが、現実でそれが行われている事を当事者から聞かされれば、顔も知らない外道たちに対して俺だって殺意も芽生えるもんだ。

 

 本人曰く、地獄は最初の一年だけ、後はなにも考える事なく男達が満足するまで感情を遮断していればいいだけと言っていた。

 行為の間に体を痛めつけられ、恐怖に染まる表情がたまらなく興奮する。

 複数人を同時に相手し、こちらが泣き叫べばそれが快楽になる者達。

 だが、一年が経ち感情を遮断し、精神を律することが出来るようになれば無表情でいられたという。

 

 それからは自分の事を指名する者達も減ってきたそうだ。

 年齢が十代半ばに差し掛かったというのも理由らしい。

 期限切れってことだそうだ……。

 ――……つまりはそこに足繁く通っていた連中は、十代半ばよりも更に若い者達にしか興味がないということなんだろうな……。

 それでも美少女としてマジョリカは人気があったそうで、指名が減ったとはいえ、他と比べれば多かったという。

 

 転機となったのは、上客だった貴族の一人から指名を受けた時だった。

 その時に貴族の護衛として雇われていたのがガリオン、シェザール、ガラドスクの三人だった。

 

 そしてこの三人はマジョリカを見た瞬間、片膝をついて挨拶をしたそうだ。

 なぜそういった行動をとったのか。

 話の続きを聞けば、この三人、ドルカネス伯爵が爺様達に戦いを挑んだ時に雇われていた傭兵団の中で当時、見習いとして活動していたそうで、その時に伯爵一族を私兵と共に護衛。

 傭兵という事もあり遠巻きでの護衛だったという。

 守られていた側は知らない存在であっても、幼い頃から目を惹く美しさをもっていた存在だったマジョリカの事を三人はしっかりと覚えていたという。

 

 戦いとなった時、次々と伯爵から離反していった者達の中には三人が所属していた傭兵団も入っており、見習いの三人はこの時、雇い主を見捨てた行為に対して強い憤りを持っていたそうで、自分たちが力をつけてからはその傭兵団を叩きつぶし、三人で活動をはじめたそうだ。


 こんな話を聞かされると、この三人に対する俺の好感度は非常に高いものになり、更にマジョリカが続けてくれた話を耳にして、好感度は天井知らずになってしまった。

 

 ――見捨てた雇い主の忘れ形見と出会ったのは運命。

 三人はここで絶対に助け出さないといけないという思いに駆られ、当時の変態雇い主をその場で痛めつけた後、娼館からマジョリカを救い出した義侠の者達だった。

 

 助け出されたものの、全てを失い、抜け殻だったマジョリカであったが、変態達から解放され、時が下る度に精神に負った傷が徐々に回復していけば、今まで遮断していた数年の間に溜まった負の感情が堰を切って溢れだし、結果、復讐に取り憑かれた存在へと変貌した。


 そしてこのミルド領に対して厄災を振りまく為に動き出すようになったという。

 ガリオンたち三人は所属していた傭兵団の裏切り行為に憤慨していたこともあり、雇い主の娘であるマジョリカを担ぎ上げて傭兵団を立ち上げることになったという。

 これが破邪の獅子王牙なる中二臭い名前の傭兵団が結成された経緯。

 

 マジョリカとの戦いで俺がマウントをとった時、強い拒否を示したのは当時のトラウマが発動したからだろう。

 だからバーストフレアの零距離使用という無茶コクリコをしたわけだ。

 感情を遮断していた学童期のころから解放されて、負の感情に支配されていた訳だからな。

 トラウマが発動すれば、後先を考えず、強い怒りの感情の赴くままに行動するんだろう――――。


「ふぅぅぅ……」

 なんか本当に疲れる話だった。

 徹夜明けだから思い出すと余計にくるものがある。


「主殿」


「はいはい」


「お疲れでしょうが、彼の者達に対する刑を考えなければなりません」


「ですね。やはり……」


「先ほど述べたように斬首が妥当でしょう。市中に晒し首も付け加えなければなりません」

 オウ……。

 まあ、いままでがいままでだからな。

 いくら同情するべき所があるとはいえ、カリオネルの馬鹿と一緒に馬鹿やっていた事だけで見れば、同情以上に刑に重きを置かないといけないだろう。


 だがしかし――、


「死罪しか考えられないんでしょうかね」


「普通に考えればこのミルドの地に厄災を振りまいた者達として分類されるでしょうから、死罪としなければ領民たちが納得しないでしょう。傭兵団の兵達は是非ともこちらに欲しいですが」


「堂々巡りになりますけど、そうなると傭兵団の者達は団長達の恩赦を望むでしょうね」


「左様。手練れを選ぶか。名声を選ぶか――。主殿はどちらを選びます?」


「ううむ……」


「各地で横行を働いていた者達の代表等に死を与えることで、領民にもう混乱は無いと安堵させ、新公爵がそれを実行したと知れ渡れば名声は高まりましょう。手練れを数百加入させられなくても、主殿の名声が高まれば義勇兵が加入し、得られない手練れの穴埋めも出来るでしょう。練度を高めるには時間を要するでしょうが、そこまで問題にはなりますまい」

 荀攸さんはユニークスキルである【泰然自若】が目立つけど、スキルには【師事向上】もある。

 先生のユニークスキル【王佐の才】に比べれば向上速度は低いけど、手練れを短期間で育てることは可能。

 正直、傭兵団の手練れを味方に出来なくても問題はない。

 

 王様が公都から王都への帰路につく時、行きとは違って民衆からは歓声が上がっていた。

 俺も民衆から歓声を上げてもらえるように、公爵として人々の信頼をもっと得ないといけないのも分かっている。


 だからこそ、人々の信頼を得るための行動として、領民が悪と見なしている者達を極刑に処することも大事なんだよな。


「ふぅぅぅぅ……」

 長嘆息ばかり出てしまう……。 

 死にかけた戦闘後、重たい話を聞かされての徹夜明け。

 心地のいい疲労感ならウエルカムだが、今現在の疲労感は嫌でしかない……。

 体全体にべっとりとへばりついてきやがる。

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