PHASE-965【荀氏の悪い笑み】

 それに――、


「キノコに関してですけど、こいつら抜け目ないですよね」


「ええ。栽培所のキノコは、成長したものだけがしっかりと収穫されていたという報告ですからね。したたかな者達ですから、ゴロ太殿に対して何かしらの行動を取るとみていいでしょう」


「ああ、そっちは大丈夫です」

 リンに手配して王都で労働に従事しているアンデッド数体と交代させて、リンの地下施設の留守を預かっているリッチのコリンズさんと、スケルトン最上位であるスケルトンルインを数体、二十四時間体制で護衛につけてもらえることになったからね。

 

 リンは一度訪れた場所ならゲートで繋げることが出来るそうで、一度リンが地下施設まで戻り、コリンズさんとスケルトンルイン達を王都に送るということで解決。

 凄いね大魔法・ゲート。

 でもって凄いね、そんな事を容易く出来ちゃうのが俺のパーティーメンバーにいるんだから。


「ゲートという魔法の素晴らしさは理解できましたが、それならばベル殿がゲートを通れば――」


「俺もリンも説明していませんからね」


「なぜです?」


「ベルはこっちで活動してもらわないといけませんから。ゴロ太も大事ですけど、現状のミルド領を考えるとまだまだ戦力を割くわけにはいきませんよ。それに王都の守りは問題ないですから」

 コリンズさんにスケルトンルインだけでも十分すぎるけど、あっちにはリズベッドを守るために、アルスン翁やガルム氏たち強者からなる亜人さん達もいる。

 何よりも、王都担当のS級さん達がいる時点で脅威は生まれない。

 十分を通り過ぎて過剰護衛なんだよね。

 

 この時点で王都で悪さをすることは出来ないし、攻めるという愚行を選択しても外周の木壁も突破できない。

 

 ――――面従腹背の連中だっているかもしれないミルド領。更には最近おとなしくなった傭兵団の動向も気になる。

 地下に潜っている状態なら、決起する可能性もある。

 こういった連中をしっかりと潰して地固めをしないと、魔王軍とぶつかれない。

 その為にもベルは現状こっちに必要なんです。と、俺なりの考えを荀攸さんに述べてみる。


「諸侯は湖での力を目にしていますので、離反の心配はないでしょう。それと傭兵団ですが、あの者たちの性格からすれば、そろそろ――」


「動き出すやもしれませんな」

 と、ここで先生が入室して荀攸さんの発言を続ける。


「と、いうより動かします」

 と、継いで訂正してくる。

 訂正と共に悪い笑みを湛えるのはいつものこと。

 いつもと違うのは……、


「ふふふ……」

 と、普段は穏和な表情の荀攸さんまで同様の笑みを湛えていることだろう。

 荀氏両名による悪い笑み。俺の知らないところで色々と画策しているご様子。

 この二人がこういった笑みを湛えるという事は、この二人が思い描くとおりに物事が進んでいると確定したようなもんだ。

 

 というか――、


「なんでいるんですか? セントラルからは離れていたはずですよ」


「ええ。色々と準備をしておりましたが、それが終えましたので。それに主が帰って来たという報を耳にすれば、戻るのが下の者の努め。主より帰りが遅れたこと平にご容赦願います」


「やめてくださいよ。先生は俺たちの為に行動してくれてますから。ゆっくりしてくださって良かったんですよ」


「そのようなお言葉を賜るだけでも励みになります」

 有能な人物に恭しい一礼でそう言われると、こっちの方が嬉しくなる。

 背中がこそばゆいよ。


「主」


「なんでしょう?」

 先ほどの悪い笑みからイケメンスマイルに変わる先生。


「私に王侯貴族の方々は公都に長居しました。カリオネル討伐から主の公爵継承。そしてそれを諸侯に知らしめる。ここまですれば我々のすることはありません」

 なんかそう言われると寂しい気持ちになるよ。

 とはいえ、このまま先生や王様たちが王都にいないのも問題だしな。

 

 なによりカイメラの動向も気になる。

 もっと広範囲で調べるためにも、王都側からも捜査隊を結成させた方がいいし、それには先生の適材適所な才能をフルに発揮してもらいたい。

 公都には甥の荀攸さんがいるから問題ないし。


 うん――。


「王都での活躍を期待します。現状で万全ですけど、ゴロ太のこともお願いします」


「全力で対応いたします。何かあればベル殿が第三の魔王になるかもしれませんからね」

 冗談で言っているつもりなんだろうけど、冗談に聞こえないから困るよね……。

 総毛立つってもんだ……。


「公都も見る事が出来ました。ここほど広くする必要はないですが、王都を発展させ不落の地へと変えていきます」


「そこら辺もお願いします」


「お任せを」

 手を重ねての慇懃な一礼にて先生は俺の期待に応えると約束してくれる。


「励ませていただきますので、我々が王都へと戻る時には大々的に見送ってください」

 体を戻して継いで出た言葉に俺は「もちろん」と返した。

 

 公爵である俺が王様を大仰に見送れば、王様の威光にも繋がるというものですからね。

 と、付け加えれば、それもありますがまた別の考えもあります。と先生。

 湛える笑みは再び悪いモノになっていた。それに合わせて荀攸さんも悪い笑み。

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