PHASE-966【見送り】

 ――――一週間が経過。

 先生たちとの別れの日となったが、天候はあいにくの雪。


「日を改めますか?」

 問うてみれば、


「いや問題ない。このくらいの雪など容易いものだ。昔は雪中行軍もこなしていたのだぞ」

 得意げな王様。周囲のバリタン伯爵やエンドリュー辺境候。ナブル将軍に俺の心の友であるダンブル子爵も王様同様に問題ないといった強気な笑みを向けてくる。


「では主、我々の見送りはここまでで」


「もっと先まで見送りますよ」


「いえ結構です。公都は広いですからね。ここまでで十分です」


「荀彧殿の言うとおりだぞトール」

 王様もここまででいいと言ってくる。

 大仰に見送るなら、公都の外周防御壁までがいいと思うんだけども。

 そうなるとここから二日を要する。

 往復で四日となれば時間を無駄に使用する事になるということで、公都中心地の門までの見送りでいいということになった。

 

 もちろん大仰という事もあって、動員できる兵達には儀仗用の槍旗を持たせて大通りに並ばせて見送る。

 一般兵だけでなく、征北騎士団に近衛なども列に参加させた。

 加えて、王様達が王都に戻るという話をミルド領全体にも荀攸さんが広めており、近場の諸侯たちも見送りに参列してくれている。

 

 まだ到着していなくても、公都外周防御壁までの移動の間に、遅れながらも参加する諸侯達もいるだろうとのこと。

 腹積もりはどうあれ、しっかりと王様や俺に対する忠誠心を見せたいだろうからね。

 湖で行ったデモンストレーションが、自分たちに向けられるという事だけは避けたいだろうからな。


「ではな――」

 王様が馬上にて俺と握手を交わし、馬車に乗る爺様に挨拶をしてから馬の腹をポンと蹴って脚を前へと進める。

 先生と忠臣の皆さんも馬上から俺に会釈をしつつ、王様の後へと続いていった。

 

 空を見上げれば、小雪が降る中をエンドリュー辺境候のワイバーンからなる竜騎兵たちが、ラフベリーサークルを描きながら地上の王様たちの足並みに合わせてゆっくりと前進していく光景。

 王侯貴族、王兵の次に続く美人メイドさん達は、一斉にカーテシーを俺へと行い王都への帰途に就く。

 

 元々リズベッドの護衛を第一としてたサキュバスさん達だったけど、多くの美人が俺の元から去っていくというのは寂しいものだ。

 最後尾でランシェルが黄色い瞳を潤ませて俺を見てきたのは嬉しくもあり、男にそんな目で見られてどんなリアクションを取ればいいんだ? という困惑も生まれるが、笑顔で手を振って別れの挨拶とさせてもらった。

 

 更にその後方にクラックリック、タチアナたちギルドメンバーが続く。

 

 ギムロンは馬鹿によって見た目が最悪になったウーヴリールの拵えを公爵家の家宝に見合うように、修復作業が完了するまでこっちに残ってくれるのは分かっていたが、カイルやマイヤ一部メンバーもこっちに残るようで、見送る側に立っていた。


 公爵として王侯貴族を見送り、勇者としてサキュバスメイドさん達を見送り、会頭としてギルドメンバーを見送る。

 

 ――――うん。皆して次の行動へと移っていってるな。


「俺も公爵としてだけではなく、勇者として新たに行動しないといけないんだろうけどな」


「そういった事を自覚できているのはいい事だ」


「だよね!」

 ベルから褒められるとテンションも上がる。

 先生や王様達との別れに寂しさもあったけど、ベルの一言でそれらが吹き飛ぶ単純脳な俺。


「主殿。勇者としての行動も大事ですが、とっておきが残っております。それをやり遂げてから勇者へとお戻りください」


「残っていること?」


「はい。叔父上と私の考えでは、そろそろ動くかと――」


「俺に何の相談もなく事を進められるのも怖いんですけど……」


「咄嗟の状況に対し、臨機応変に対応できるようになってほしいという我々の気持ちが籠もっておりますので」

 なんて清々しい笑顔なんだろう……。

 そんな気持ちはいらないんですけどね……。


 戦いの場ではベルとゲッコーさんが俺の成長のためという名目でスパルタ。

 後方では後方で、先生と荀攸さんが俺の成長という名目でスパルタチック。


 俺に優しさだけを向けてくれる召喚者たちはいないのだろうか……。

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