PHASE-1053【姉】

「あまり生意気な事を言わないことですね」


「言い過ぎればどうなるのでしょうか?」


「私は氏族だぞ!」


「だから?」


「ここはエルフの国だ。その中で氏族の私にそんな口をきけば、ご自身の立場が危うくなるとは思わないのですかな!」


「――ほう」

 あ……、ポルパロングって馬鹿だな。

 一歩後退した時に悟るべきだった。ベルの嘲笑が消えて真顔になってからでは手遅れだぞ。

 今お前が立っている位置は――、


「死地に入ってますよ。それ以上の痴れ言を続ければ死は必定。気付くべきですね。背後に死神が見えますよ」

 その通り。

 ――……それ俺が言いたかったよコクリコ。

 言われてはたとなるポルパロングは、よせばいいのに怖いもの見たさだったのか、エメラルドグリーンの瞳と自分の視線をしっかりと合わせてしまうという愚行。


「あ、あ……ああ……」


「危うくなるとは――どういった意味でしょうか?」

 怖っ! ベルの迫力はいつものことだけど、敬語を使用した状態での迫力は普段、俺なんかと喋る時よりも圧がある。

 後退りは最早、数えていない。

 先ほどは一歩で踏みとどまって見せたが、殺気を感じ取ればポルパロングの長い耳はイカ耳のようになり、体を震わせ一気にベルから距離をとる。

 コクリコの発言も気になったようで、ベルと自身の背後を見るために忙しなく顔を動かしていた。


 ポルパロング――完全に呑まれたな。

 ベルの迫力は確かに凄いが、この程度で呑まれるって事は小者もいいところだ。

 本気の殺気だと――ゲッコーさんでも背筋を伸ばすからな。

 それが無いうちはまだまだだよ。

 

 にしても、こんなのが氏族か。

 然り、然りとしか言えないイエスマンも黙り込んでいる。

 蛇みたいな筆頭氏族は――流石は筆頭を冠するだけはあるようだ。ベルの睨みに物怖じしていないように見える。

 目を合わせることは絶対にしたくないのか、視線下方四十五度凝視ではあるが。

 それでもこの中では胆力はあるほうだろう。


「勇者殿」

 そんな蛇さんが顔を上げて俺を見てくる。


「なんでしょう」


「大変、申し訳ありませんでした。私が愚者に見えると言った発言から端を発したと判断いたします。平にご容赦を」


「おやめくださいカトゼンカ殿! 私が先に勇者殿に不遜な発言をしたのですから」

 とか言いつつ、上手い具合にベルの視線から逃れるように筆頭の蛇さんの方に移動出来たね。

 もしかしたらそういった算段での言動だったのかな? 蛇さん。


「ベルも少し落ち着け。さっきまで威嚇していたミユキも怖がっているし」


「――そうだな。トールの発言に従おう。すまなかったミユキ」

 こういう時はモフモフを理由にすれば問題解決だな。

 

 ――廊下が静かになったところで扉が開かれる。

 まるで扉の向こう側でこちらの一悶着が終わるのを待っていたかのようなタイミングだった。


「騒がしいですよ。ここから先は謁見の間だというのは皆様ご存じでしょう」

 現れた人物に蛇さんをはじめとした氏族の皆さんが一礼。


「ふぁ~」

 礼をする面々とは違い、俺は間の抜けた声を出してしまう。

 落ち着きある口調の人物はとんでも美人なエルフさん。

 間の抜けた俺の声に対しても優しく微笑み、典雅な一礼をしてくれる。

 

 見入ってしまう美人でいえば俺のパーティーだって負けてないけど、見入ってしまうね。

 一礼の時もそうだけど、体を戻す時にも連動する金糸のようなサラサラの長髪は芸術である。

 エルフの方々の中では薄緑の色が流行っているのか、蛇さんのローブと同色のタイトなワンピースのような服を着こなしている。

 体に沿っているからエロさもあります。

 

 ――それにしても既視感がある。

 まるでシャルナをおしとやかにしたといった感じだ。

 シャルナもこうやって静かにしていれば美人が際立つのにな。

 影が薄いのと静かなのは違うからな。

 むしろ静かにすることで際立つんだからな。

 うん、うん。シャルナも目の前の淑女を手本にしてほしいところだ。


 なんて思っていれば、


「お姉ちゃん」


「「「「……ふぇ!?」」」」

 シャルナの衝撃発言にパーティーメンバー揃って変な声を上げてしまった。

 シャルナをおしとやかにすればって思っていたら、そのシャルナのお姉さんだったようだ。

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