PHASE-72【こんな家に生まれたかった】

 ――……ふぅぅぅぅぅぅ……。

 さっきので、飲んだ水が全て持って行かれた気分だ……。

 足は生まれたての馬のようにガクガク。

 移動は不可能だな。

 とはいえ、森の中で一夜を過ごしたくないギヤマンハートの豆腐メンタルな俺は、考える。

 軍用トラックだって召喚できたんだ。ならば、コレも可能だろう!

 木々のない広い空間を見つけ――――、プレイギアを手にして――――、


「――――よもや、家が出て来るとは。入浴は出来るのだろうか」


「多分」

 途端にベルが柔和な笑みを見せる。美人なのに、可愛い笑みだ。

 やはり風呂に入れないのは辛いんだろうな。

 正直、家が出せたのには、自分でも内心、驚いている。

 これが出来たなら王都でも――――、いや、住民の生活を考えたら贅沢だからよくないな。


「大したもんだな。何でもありだよ」

 武器を虚空から取り出すことの出来るゲッコーさんも、大概なんでもありですけどね。

 とりあえずこの家の事は、俺の心の内にだけ秘めておこう。

 無駄な詮索は避けないとな。

 つよきっ子がヒロイン達の、ギャルゲー主人公の家とは口にはすまい。

 そして死ぬ前に、俺がネットで購入したハッスルゲームが同作品というのは、俺とセラだけが知っていればいいことだ――――。

 三次元から二次元に逃げたなんて、口が裂けても言え!? うう……。


「は、早く入ろう……」

 次なる波が俺の腹部を襲い始めた……。

 温かい便座。ウォシュレットよ。我を癒やしたまえ。

 

 ――――はぁ~。

 更に一時間近くが経過した。

 なんとか峠は越えたな。森の中を走り回ったのより汗を流した。

 出すもん出したら、腹が減ったな。冷蔵庫になにかあるかな?

 しかし、部屋数もそこそこあれば、洗面台には蛇口が四つ、鏡も同数。

 なんでギャルゲー主人公の家ってこんなにもいいんだ? 中流階級の設定のはずなのに、部屋も広けりゃ、ゲームにパソコンと揃っている。

 トイレの後に、家の中を探索する俺は、主人公の恵まれっぷりに負の感情が芽生える。

 更には可愛い女の子たちといい感じになれるんだもの。嫉妬してしまうね。

 ――一階にあるリビングに戻る。ゆったりと十人ほどが座れるソファーとかさ……。そこに主人公が一人暮らしとか……。なめすぎだろ!

 親はご都合主義な海外での仕事。一人なのをいい事に、ヒロイン達を連れ込んでイチャイチャしやがって!


「どうした?」


「いえ別に、ごゆっくり」

 いかんな。ゲームの主人公を操作している俺が、その主人公に嫉妬するとか、ようわからん状況だ。

 ゲッコーさんはソファーが気に入っているのか、体を横にしてベッド代わりにしつつ、紫煙を燻らせている。

 んじゃ俺はっと――、


「おお! あるある!」

 冷蔵庫を開けば、食材にジュース。

 ゲームの主人公は、料理が苦手ということで、普段は弁当やカップ麺という設定なのに、なぜにこうも材料が豊富なのか。

 解せぬ……。

 とか思いつつも、コーラを手にしてプシュ。

 ステイオンタブ式の缶から小気味のいい音を奏でれば、バッとソファーからゲッコーさんが起き上がる。


「いい音だ」


「あ、ビールとかはありませんよ」

 言えば、なんとも残念そうな表情で再び横になった……。

 この家の主人公は未成年ですから、諦めていただきたい。


「う~ん冷たくて美味い!」

 そう! 美味い! 冷たくてな! 喉に突き刺さるような強炭酸。日本の良さがこの異世界で堪能できるとわ!

 うん――――、冷たいんだ――――。

 そもそも、リビングの電気もそうだし、冷蔵庫もだが、電気はどこからきているのだろう?

 便座も温かければ、ウォシュレットも適温だった。

 超設定のなんでもありな状況だな。

 よし! 【あの力】ってことでかたづけよう。

 食料があるのは理解できた。

 コーラの炭酸のおかげで、今は空腹が紛らわされている。

 ならば、食事よりもまずは風呂だな。うむ、大量の汗をかいたからな。スッキリしてからご飯を食べよう。

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