PHASE-73【ギャルゲーみたい】

 ――――ポイポイっと、全裸になってドアノブをガチャリだ――――。


「…………」


「…………」

 おいおい、なんだよこの展開は。

 俺だって馬鹿じゃない。脱衣駕籠にだって目はやったさ。入ってなかったさ。

 入浴しているような音だって、風呂場からは聞こえてこなかったさ。

 でも眼前では、腰かけに座った赤髪の美人中佐が、体を洗ってたさ。

 立派なロケットなのさ。重力に逆らっているかのようだよ。垂れるってのを知らないお胸様さ。

 94㎝アバカンはダテじゃないさ。

 惜しむらくは、ご都合主義とばかりの、泡や湯気によって、大事な部分は全て隠されているってことさ。

 殺意を覚える、深夜帯アニメの光規制ディメンションジャマーに比べれば、自然なので許せますけども。

 いや本当、あの画面の殆どを覆う光規制ディメンションジャマーは何なの? あれなら最初からそんな状況を制作しなきゃいいだろ! あれか! ブルーレイやDVDっで楽しんでくださいってか?

 どんだけ赤貧の俺に金を出させたいんだよ!

 ――おっと、変な感情が憑依してしまった。

 

 ――だがしかし、なぜにこうも容易く、ベルも俺の侵入を許した?

 あのベルだぞ。感知スキルのパラメーターとかあったら、間違いなくカンストしているだろう。

 だが、風呂場からは音も無ければ、駕籠に着替えもない。

 ――――は! これはもしかして、この家の能力なのか!?

 この家はギャルゲー主人公の家。

 だからこそ、こんなご都合主義でおいしい状況が訪れたのか? ならば得心もいくというもの。

 ご都合主義のテリトリー内だから、ベルも俺の気配に気付かなかった。

 何よりもこのゲームは、元々はPCゲームで十八禁のハッスルゲーム。

 しかし、CSになってからは、もちろんそんな要素はない。が、こういう入浴しているシーンに出くわすイベントは生きている。

 そう! そんな時は、なぜかヒロイン達の体は、泡や湯気に守られていた。

 うむ、やはりこの家にはそういうスキルがあるのかもしれないな。十八禁だったら見えていたと思うと、この状況は、おいしいような。残念なような。そんな気分になる。


「……お、お前はなんでそんなにも冷静なんだ…………」

 ほほう、髪にも負けないくらいに、頬を紅潮させておりますな。

 うむ、まさに乙女の恥じらいよ。


「いい加減、出て行かないか!」


「ぎょん!」

 お約束とばかりに、洗面器が俺の顔面を直撃だ。

 そして仰向けに倒れる全裸の俺の股間は、ご都合主義とばかりに、投げられた洗面器によって隠されるっていうね。

 正にギャルゲーの世界だ。そう! CS版のな!


「で、お前は鼻血を流しながら、何をにやついているんだ?」

 服を着て、リビングに戻れば、ゲッコーさんが強敵を見るかのような目で、俺を射抜いてくる。


「お前、まさかとは思うが――」

 問おうとしている最中に、


「まったく!」

 と、お怒りになりつつ、リビングにベルも入ってくる。


「やはり――、そうなのか!」

 更なる炯眼になるゲッコーさん。

 これあれだ。嫉妬だ。俺がおいしい思いしてるから、ゲッコーさんが嫉妬してるんだ。

 ハードボイルドだけど、結構エロって感じの人でもあるからな。

 まあ、男だからね。しかたないね。


「しっかりとは見えてないんで」


「誓えるんだな」


「もちろんです」


「だが、しっかりでなくても見てるんだろ」


「ええ」

 勝ち誇った笑みを見せれば。


「クソッ!」

 と、歯を軋らせている。咥えた煙草のフィルター部分が噛みちぎれるくらいに。


「二人とも! いい加減、その話はやめてもらおうか!」

 ゲッコーさん以上の炯眼によって、しじまと変わった。

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