PHASE-71【転生史上、最大のピンチ】

 ――――ふぃぃぃぃ……。


「これほどまでに水が美味いと思えるのも初めてだ」

 何とか切り抜けた。

 今ごろオーク達は必死になって、俺たちのことを探してるんだろうな。

 しかし、小川の水が体の中にすぅぅぅぅって入ってくるね。


「ガブガブと直接飲むんじゃない」


「ゲッコー殿の言うとおりだ。慣れない地での水は、お腹に負担がかかる」

 あら可愛い。凛とした姿なのに、お腹って言うところが、年相応の乙女っぽかったよ。

 そういうギャップ、ウエルカム。


「なんだその顔は、随分と余裕だな」

 ムキになるのも可愛いもの。これまたありがたき幸せ。

 それにしても、相変わらずヒールの高いブーツで、下生えに、木の根が出てる足場の悪いところを平然と走れるのは流石だな。

 ――ふむ。喉の渇きはとれたけど、腹が減ったな……。

 月の明かりだけを頼って森の中を歩くのは得策じゃない。暗視ゴーグルって手もあるが、ここは足を動かすより休めたいね。

 かといって、俺はいままで安寧な日本で生活をしていた。生活水準を落とすというのは、王都の小屋や、城壁の詰所がギリだ。

 雨風をしのげるなら俺の精神も耐えられるが、こと森の中で一晩となると、ギヤマンハートな俺には過ごせるとは思えないね――――。



「……お……おお…………」

 森の中で過ごすのは辛いが、それ以上に辛い状況……。


「まったく、だから言ったのだ」

 やめて、そんな小馬鹿にした目で見ないで、事は一刻を争う……。

 水を飲んで一時間くらい経過したところで異変が生じた……。

 腸がねじれるんじゃないかと思えるぅぅぅぅぅぅぅ……、くらいの激痛が俺を襲う……。


「脂汗が凄いぞ」


「ゲッコーさん。しゅ、終末が訪れました……」


「いや、うん。お前の腹痛でいちいち最後の審判が開廷されてもな。その度にイエスが再臨して裁いてたら、オーバーワークで、甚だ迷惑な話だろう」

 なにをこんな時に、小洒落た笑いを入れてきますかね。この大人は……。

 まったく面白くないよ!


「こんな状況下で襲われたらどうする気だ?」

 冷静な問いかけはいらないよ。ベル……。

 ――……!?


「あ……」


「おい、私に近づくなよ!」


「だ、大丈夫だ。俺の括約筋はやわじゃない。耐えている」


「や、やめろ! そんなはしたない事を言うんじゃない」

 あらウブですね。紅潮してらっしゃる。可愛いじゃないか。

 ――……なんて事を思っている場合ではないのだよ。


「ムリムリムリムリ! MRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」


「こんな緊急時でもネタをぶち込んでくるとは」

 サムズアップいらないです。ゲッコーさん、なんとかしてほしい。

 ベルは一目散に後方に待機してるし。そういえば、王様たちの臭いが嫌で、速攻で後ろに下がってたっけ……。


「――――穴掘ってやったからやってこい。紙もあるぞ」

 多目的ツールなスコップを片手に、ゲッコーさんがそう言えば、俺は急いで紙をいただきそこへと行く。

 ――…………人生初だ。

 野糞って人生で初だよ……。

 トイレにはウォシュレットがないと、ギヤマンハートが砕け散ってしまう俺が野糞だよ。

 泣きたくなるぜ……。

 セラにはトートーって呼ばれたこともあったが、その名の恩恵はないぜ……。

 ゴロゴロと、俺の腸内は未だに衝撃が駆け巡る。


「平気か?」


「はい……」

 情けない……。

 俺はこんなところで野糞をするために、異世界に来たわけじゃない……。

 死んでしまったから、ここで活躍して生き返るってのが目標なのに。仲間の力を借りて、魔王を倒すってのが目標なのに。

 現在、活躍しているのは、括約筋ってね……。

 へ、口にすると薄ら寒いギャグだろうな……。

 寒いのはこの状況だけでいいよ。

 ゲッコーさんはまだしも、超絶美人の近くでこんな状況だからな……。

 ――……穴を埋めて、ふらついた足で立ち上がる。

 洋式になれた男は、和式スタイルは苦手だ。


「運がいいぞ。敵は完全にこっちを見失ってるからな」


「申し訳ない」


「ウンは現在、放出したのにな」

 なんでそんなドヤ顔?

 兵士としては一流でも、ギャグセンスは絶望的ですね。

 活躍と括約筋をかけた俺のギャグも、絶望的だけども……。


「へあ!?」

 ええい! 未だに俺の腸内で戦闘を継続させたいのか!


「はあぁぁぁぁ……」

 やめて、その重たいため息……。

 美人にされると、まじで俺のギヤマンハートが粉々だから。精神的に弱ってる時はとくに辛いから。

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