PHASE-38【奪う】

 そんな子供たちも自分たちに出来る事をと、回収できそうなサイズの利器を手にして荷車に運んでいる。


「怪我をしないようにな」

 伝えると、元気な返事だ。


「ふっ」

 俺が笑顔で子供たちと接していれば、なぜかベルが鼻で笑った。

 あれか? マッチポンプな行動での英雄様を小馬鹿にしてるんだろうな。こっちは死体を運ぶので一杯一杯なのにさ。

 俺に対する当たりが強かったのもある――――。


「皆。お姉ちゃんにも手伝ってもらおうか」


「な!?」

 ほほう。美しい無敵の女傑も、子供は苦手なのか、近づかれるとあたふたとしている。

 その姿についつい笑いをこぼしてしまうと、睨まれてしまった。

 でも、今回の俺はそんなことでは引き下がらない。


「お姉ちゃん怖いね~」

 周囲の子供たちに伝えるように言えば、「おこってるの?」と、無垢なる存在に語りかけられると、更にあたふたとし始める。

 だが、これ以上やると、本気で怒られそうだからやめておく。

 引き際を知る男として生きていきたい。

 ――――にしても、俺なんかより子供たちの方が、よっぽど胆力があるね。

 死体が手にする利器を平気で取り上げるんだもの。俺は未だに抵抗があるのに。

 中世時代のようなこの世界で生きる子供たちはたくましい。

 そんなたくましい子供が二人、大きな斧を運ぼうとすれば、


「私がやるから」

 と、先ほどから俺の周囲で手伝いをしてくれる少女が言った。

 背格好からして、中学校の一年生くらいかな。小さな子供たちのまとめ役みたいだ。

 栗毛の三つ編み。将来は美人になるであろう、可愛い子だ。

 着ている服はあちこち穴が空いているのか、別の布で縫ったアップリケ。綺麗なドレスを着せてあげたい容姿である。

 衣服なんかも全体に流通できるように、努力しないとな――。


「死ね!」

 考え事をしていれば、戦いの終わった現状に似つかわしくない発言が、耳朶に届いた。


「!?」

 女の子と死体を供養しようとしていると、倒れたオークの方から声が聞こえた。

 瞬時に目を向けたけど、そこにあるのは動かない死体だ。

 凝視すれば、死体が蠢く。そして、盛り上がったと思えば、下からゴブリンが跳び上がってきた。

 こいつ、人語を喋っていると驚いたけど、それよりも手にした剣の切っ先が、俺の側にいる女の子に対して向けられていることで、焦燥感に駆られた。

 ――……砦の時には抜けなかった刀を抜く。躊躇する思考に至らなかった…………。


「ギャッ……」

 断末魔をあげたのは……、ゴブリン。

 力なく前のめりに倒れ込む。

 鞘から抜いた刀でとる姿勢は、自然と、普段から構えている上段であった。考えるよりも先に、体が勝手に構える。

 竹刀のような軽さはない……。C-4を起爆させた時の重さとはまた違う感覚。

 上段から振り下ろせば、刀の自重も相まって、加速された一振りは絶大だったようで、子供ほどの大きさのゴブリンを容易に倒せた。

 柄から伝わってくる感覚。

 刀身が肉に食い込んでいく感覚。

 その中で硬い物に触れる感覚。

 おそらくそれは骨なんだろうと、考える自分がいる。

 ――……見下ろせば、前のめりに倒れたゴブリンが痙攣し、鮮血が円を描くように広がっていき、程なくして、ゴブリンは動かなくなった……。

 俺の一振りにて屠った……。

 俺が、命を奪ってしまった…………。


「ありがとうございます!」

 女の子の母親だったのだろうか、襲われそうになったところを目にしていたのか、急ぎ女の子を抱きかかえるようにして、俺に感謝の言葉を言い続けていた。

 でも、よく聞き取れない。段々と声が遠のいていくような感じである…………。


「主?」

 ――……!?


「主!」


「はい!」


「ふむふむ――」

 はたと意識が戻った時には、先生が俺の周りを見回していた。

 怪我を負っていないかと、心配しているようである。

 ――――時間は黄昏時。俺の影が大地に長く伸びている。

 俺が殺めたゴブリンは、俺が惚けている間に運ばれたようだ。

 ともすれば、斬ったことは俺の中の勘違い……。


「お見事でした。少女の命を見事に救われましたな」

 先生のこの言葉で、俺は命を奪ったという事を再認識させられた……。

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