PHASE-1482【突撃歩兵】

「なんだァ? てめェ」

 即座にベルとそいつの間に割り込めば、両手を上げつつ作り笑いと共に距離を取ってくる。


「いやいや、あまりにも美しいからね。話しかけないと失礼だろう。もちろん他の女性陣にも挨拶をさせてもらうよ。皆して美しいのだから」

 言いながら片目をぱちりと閉じるという所作。

 ――……ウインク!? ウインク!

 クサい発言をしながらウインクをする。よくもまあ恥ずかしがらずにそんな事が出来ますわ!

 

 明らかに俺とは違う世界で楽しんでいるヤツだ。

 

 ――陽の者。コイツは間違いなく陰の者である俺とは対極の位置にいる陽の者。

 絶対に相容れないし、馴れ合いたくないヤツだ。

 

 しかも――、


「中々に整った顔じゃない」

 そう! リンの言うとおりイケメンですわ!

 人間フェイスのイケメンですよ!

 先生のような爽やかスマイルで嫌味のないイケメンとは違って、ひたすらに女が好きで下半身でまず考えるタイプのイケメンだね!

 こっちが殺意を宿すには十分な理由を持っていると言ってもいいイケメン。

 ワンコンタクトでコイツの全てを否定してやりたいくらいの女たらしのイケメン。


「コイツは女を駄目にして、女を快楽目的だけでしか見ていない駄目なヤツだ!」


「初対面でまだ名乗りもしていないのに、随分な言い方じゃないか。女を駄目にするってのは合ってるけどさ。でもそれは俺が悪いんじゃなくて、俺に惚れた女たちが俺だけを見るようになって、他がおざなりになるんだよ」

 喋々と!


「よし、殺す!」


「兄ちゃん。発言がストレートすぎるよ……。その発言、勇者としてどうなのさ。まあ、負の感情は美味しいけど」


「ミルモン、ありゃ人様の畑を荒らす悪いハゲタカだ! 駆除せねばならん!」


「凄い殺意だね……。兄ちゃん」


「まったくだね。初対面でそこまで悪く言われると、こっちの心が痛むってもんだよ」


「心どころか体もボロ雑巾のようにしてやる!」


「とても最初の頃は話し合いでこの地を訪れたとは思えない言い様だ」

 肩を竦めるな! 男前の小馬鹿にした笑いとその動作は俺の神経を苛立たせてくる!


「とりあえず、自己紹介くらいさせてほしいね」


「倒しヤツの名など覚える必要などない!」


「落ち着けトール。敵視しすぎだ。話が先に進まない」


「感謝するよ。白銀の美女」


「必要ない」


「つれないな~。俺の情熱でその閉ざした心を温めてあげたいね」

 かゆい、かゆい!

 体がかゆい! なんでここに来てこんなナンパなのが出てくるんだよ!

 苦手な顔ではあるけども、ジージーの方を相手にし続けていた方がまだましなレベルのヤツだな。


「それにしても美しく愛らしい女性陣だ」

 ああ! かゆい!


「下心をまる出しにした、にたつく笑みを浮かべていないで名乗ったらどうだ!」


「いや、君……。こっちが名乗ろうとしたら話を遮ってきたでしょう……」


「黙れい!」


「凄い横柄だな勇者というのは……」

 呆れるイケメン。

 まるで俺が嫉妬しているように思っているのかな?

 嫉妬ではなく殺意だというのを理解してもらいたいよ!


「俺の名はラズヴァート・エッケレン。フェイレンの出自」


「――フェイレンてなんや?」


「翼人の種族の一つだよ」

 俺の問いかけにシャルナが教えてくれれば、


「有り難うハイエルフの美人さん。お礼に食事でもどうだい?」


「ハハハ……」

 渇いた笑いで返すシャルナに脈無しと思ったのか、残念と一言。


「フェイレン族の男前、続けんかい!」


「怖いね~」

 スマイルで返してくるところに更に殺意を抱いてしまう狭量な俺氏。

 イケメン――テキ! オレ、コイツ、キライ!


「兄ちゃん……」

 俺の感情を察したミルモンが呆れるけども、嫌いなものは嫌いでしかない。

 整った顔に褐色の肌。金色の瞳に短髪の黒紙。

 耳には蛇を模した金ピアス。これまた金で出来ている太いチェーンネックレスには、魔力向上のためと思われる緑色のタリスマンがはめ込まれている。

 服装は全身黒で差し色は金。

 ノースリーブで胸元をはだけさせた上半身。

 下半身はニッカポッカ風。

 

 褐色肌に金色のアクセサリー。

 でもってゆったりと着こなす防御力がなさそうなファッションは、俺が苦手とするもの。

 ルックスも服装もまったくもって受け付けないね。


「こっちは続けたいのに、もの凄く敵意を持って凝視してくるね……」

 俺の睨みに話を続ける事が出来ないと言いながらも、笑みには余裕があるところが気に入らないんだよね!


「トール。いい加減にしろ」


「――おう!」

 ここでもベルに感謝をするラズヴァート。

 

 典雅な一礼を行って姿勢を戻したところで、


「自分は翼幻王ジズ様の側仕えである部隊に所属している。所属部隊名はストームトルーパー」


「なんだその銀河帝国の兵と同名な部隊名は! なめてんのか!」


「ギンガ帝国?」

 首を傾げるラズヴァート。


「突撃歩兵の事だろう」

 と、ベル。


「飛んでるのに歩兵かよ。で、側仕えって事はストームトルーパーの立ち位置は近衛兵と考えていいのか?」

 問えば、


「近衛と言うよりは、何かしらの問題が発生した時、主の目となる為の先駆けと言ったところかな」


「なるほど。先駆けの割には随分と遅い出会いだったけどな」

 こっちはここを訪れてそこそこの時間が経過しているし、戦闘も行ってきたんだけどな。

 

 だが、まあいい。

 

 そうかそうか。コイツは翼幻王ジズの側仕えか。

 願ってもない相手だ。


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