PHASE-1320【風を纏う】
そう恥だ! 今回、同行したパロンズ氏だって自分の弱さと向き合って努力しているんだからな。
その努力をお手本とさせてもらう。
「惚けて立っているようだが、それは貴様と我との差が圧倒的だからなのなか? 不意を突かれても対応可能という事か?」
「そうじゃないよ――っと! だからそんなにお怒りになって得物を振らないでもらいたいね」
高速移動からの攻撃は側面からのもの。
振り下ろしからの刺突による連撃速度は今までで一番速かった。
「よく考えてるね」
長柄には両手だけでなく鉤状の尻尾が巻き付いており、第三の腕のような役割を果たしていた。
両腕のみの力で生み出す振りでは、俺に対処される。
ならば尻尾も使って力を向上させる。という発想は素晴らしい。
戦いの中で試行錯誤するのは相手も一緒。
だからこそ勝つためには、更にその先を歩めるだけの試行錯誤と努力が必要になるって事だよな。
後は――やれば出来る! というポジティブな思考も大事だ。
イメージに最も近いのは――、
「マスリリース」
残火を振り光斬を放つも、臆することなく轟音と共に振られるハルバートで打ち消すと、同時に俺にも攻撃を加えてくる。
これを躱し距離を取れば、眼前から迫ってくるヤヤラッタは足を止めることなく、ひたすらに俺へと足を進めてくる。
マラ・ケニタルからのマスリリース第二射はプロテクションで防ぎ、ここでわずかに足の運びが遅くなったところでイメージと集中。
「窮した――わけではないよな」
俺が動きを止めれば、警戒から足の運びをゆるめるけども、接近する姿勢に変更はない。
そんな中でシャルナが腕を上から下へと振り下ろして顕現させる風の刃を想像し――、
「生み出す! ウインドスラッシュ!」
両手は愛刀で塞がっているので、勢いよく蹴り上げるモーション。
「!?」
「おお!? 出た!」
見舞われる方より、出した方が興奮の声を上げてしまう。
顕現した風の刃は一直線に飛翔。蜃気楼のように空気を揺らめかせる軌跡を描きながら、ヤヤラッタの右前腕を切り裂く!
――つもりだったが……、
「マスリリースと比べれば可愛いものだな」
「浅いか……」
切断することは叶わず、ガントレットの表面に傷をつけた程度だった。
しかもシャルナのように術者の身長サイズからなる風の刃ではなく、小太刀くらいのもので威力も低い。
だがそれでも、
「出せた! 中位を出せた」
自力で風の中位魔法という感動。
「なにを中位程度でそこまで喜ぶのか。本当に勇者なのかな?」
こっちが喜んでいる時に水を差さないでもらいたいね。
戦闘中にそんな事を思う俺も駄目なんだろうけど。
「ウンインドスラッシュ!」
と、もう一度、蹴り上げて放てば――やはり小太刀サイズ。
「さっきから遠距離用の斬撃ばかり。斬るのが好きなようだ」
ウインドスラッシュにはそこまで脅威を感じないようだけど、続けてマスリリースと発せばプロテクションで防いでくる辺り、威力の格差が窺える。
――立て続けに風の刃を放っていく。
一度コツを掴むとマスリリースと同様で発動は難しくない。
体内から発動するか、外部から力を借りるかの違いはあるけども、問題なく発動できている。
「面倒な事だな」
ヤヤラッタは遠距離からの攻撃ばかりにうんざり気味といったところ。
自身もバーストフレアを発動しようとするけども、
「プロテ――」
シャルナ――やっぱり悪い子。
炸裂の上位魔法を放とうとすれば、シャルナが同様の嫌がらせをしようとしていた。
「面倒な事だな」
同様の発言をしつつ、山羊兜が重々しく左右に振られる。
「軍監殿~」
「情けない声を出すな。最初の勢いはどうしたのだ」
ミノタウロスの声に対しても、やれやれと重々しく首を振るヤヤラッタに、
「そいや!」
「ふん!」
やり取りを遮るように今度は蹴りではなく、マラ・ケニタルを使用してのウインドスラッシュ。
ハルバートの一振りによって迎撃されるけども――、
「ぬん!?」
兜の奥から驚きが漏れる。
切り払うけども、その衝撃を殺しきることが出来なかったのか、巨体が仰け反り転倒しそうになっていた。
「なんだ!? 先ほどまでとは違うな。威力が上がっている」
よしよし。やっぱり風魔法はマラ・ケニタルで放つべきだな。
マラ・ケニタルは風の加護をルーン文字で刻んでいる。
風系を使用すれば威力もアップ。
俺のへっぽこウインドスラッシュであっても、マラ・ケニタルを介せば立派な中位魔法として使用できる。
「いいぞ。後はイメージの世界だ。火龍の鱗から作られた残火も、ブレイズを使用すれば刀身に留まってくれるからな」
本来のブレイズは強力な火柱により対象を攻撃する上位の火炎系魔法だけども、俺の場合は用途が違うからね。
残火で出来るんだ。
「マラ・ケニタルでも同様の事が出来るというのを信じたい」
ヤヤラッタへと疾駆しながら、
「更に強い風を纏え!」
「これは!?」
俺の思いを汲んでくれるように、愛弟子から賜った第二の愛刀のルーン文字が反応すれば、刀身が纏う風の密度が濃くなっていくのが分かる。
「新技のための実験体第一号にしてやる」
「御免こうむる!」
言ってプロテクションを展開し、俺の侵攻を妨げるも、障壁ごと断ち切ってやるという気概を乗せて、密度の濃い風を纏ったマラ・ケニタルで袈裟斬り。
「おわっ!?」
障壁に風が衝突すれば、衝撃が生じる。
でもって頬に伝う温かいもの。
「トール!?」
と、シャルナ。
「大丈夫。ミルモン」
と、俺が問えば、左肩から大丈夫と返ってくる。
――かまいたちと例えるべきか、刀身から解放された風の刃が一帯に放たれた。
で、使用者の俺も傷を負ってしまった。
うむ……。無名の新技発動は、自爆スタートからか……。
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