PHASE-1319【くろいバリバリ】
値千金の活躍を見せてくれたミルモンに呼応し、俺も動こうとするが、背後からのハルバートにより邪魔をされる。
さっきまではそこそこ本気だったとか言っていたけど、強がりでもなく本当だったのがわかる。
今回のは本気の本気を思わせる、速い振りによる一撃だった。
恰好の悪い横っ飛びにより回避をしつつ状況を窺えば、地面に倒れ込むタチアナをパロンズ氏がすかさず抱きかかえてミノタウロスから距離を取ろうとしたところで、
「雑魚どもが!」
怒り心頭のミノタウロスが拳を振り上げれば、
「プロテクション」
パロンズ氏に抱きかかえられながらタチアナが障壁を二つ顕現させる。
自分たちとコルレオンを守るように展開すれば、左腕にダメージを与えた後者へと狙いを定めた拳を防ぎきる。
「よっ!」
間髪入れずに小気味よくシャルナからの一矢。
矢は二つの障壁の間を縫ってミノタウロスの頭部へと突き刺さり、巨人の体が大きく仰け反る。
仰け反ると同時に叫び声。
空へと顔を向けての叫び声は、ここだけを切り取ると怒りの咆哮を放っているようにも見える。
そう見えるだけで、実際は見舞われた方はただでは済まないんだろうけども――、
「頑丈なのか、分厚い頭蓋なのか」
矢を頭部に受けても倒れることがなかった事にシャルナが一言。
そして――、
「眼窩を狙えば良かった」
と、続ける。
「許さんぞぉい!」
仰け反った姿から姿勢を戻せば、近場の木を根っこごと引き抜き即席の棍棒へとしたところで、
「くろいバリバリ!」
と、右手にサーベルを持ったミルモンが、左手を勢いよくミノタウロスへと向けて振り下ろす。
「なんだい!?」
突如としてミノタウロスの体を覆う黒い電撃。
見舞われた黒い電撃は体から消えず、手にしたばかりの木をかなぐり捨てて、隆起した地面にて体をゴロゴロと転がす。
「ヒィィィ! 取れないぃぃぃぃい!!」
「どうだいオイラの力は!」
勝ち誇るように哄笑する姿は、小悪魔だけど悪魔然としていた。
再び左手に黒い電撃を纏わせれば、自分をもっと注目しろとばかりに忙しく背中の羽を動かし、この場にいる全員に見える高さにて留まる。
ミノタウロスを襲う黒い電撃の使用者の姿を目にすれば、カクエン達の勢いが瞬時に衰え、ミルモンは更に気分をよくする。
――くろいバリバリ――か。
ミルモンがムキになる度、拳に纏わせていた黒い電撃の正式名称。
確かにそんな技名が、技コマンドの中にあったような記憶がある。
ミルモンが初期に覚えている技だから、威力とかそんなにないと思うんだけども。
あのゲームの世界の初期技の威力は、この世界だととんでも威力って事なのだろうか?
ストーリー上でも大きな力は出て来るけども、そこから差し引いてもあの五メートルを超えるミノタウロスをあんなにもする威力があるとは到底、思えないんだけどな……。
「信じられん!」
と、俺が考察をしている近くでは、ヤヤラッタが山羊の兜の内部から驚愕の声を発していた。
「インプよりも小柄な小悪魔が、
――……そんな名前は知らないんだけど……。
あれはミルモンが発したように、くろいバリバリっていうゲーム内の初期技なんだけども……。
なにやらとんでもない勘違いをしているようだな。
それほどに闇の大魔法であるダークネスライトニングってのと、ミルモンの技は見た目が酷似しているってことなんだろうな。
「流石は勇者の従者か。小悪魔であってもこの実力とは……」
「感心してないで、早く消してくれぇぇぇぇぇぇぇい!!」
石や木に体を打ち付けながら転がるミノタウロスが、恐怖からの叫び声で救済を求めると、即座にヒールを発動するヤヤラッタ。
――程なくして黒い電撃が消える。
「た、助かった……。助かったの……か?」
と、大きな体が情けなくなるほどに弱々しい四つん這いの姿となり、自分の無事を確認するように頭部を忙しく動かして体全体をチェックする姿はまんま牛だった。
そんな情けない巨人に対して、
「さあ、もう一発だ」
勝ち誇った笑みを湛え、赤い虹彩からなる瞳を煌めかせるミルモンがミノタウロスを見下ろしながら発せば、
「ひぃぃぃぃい!?」
完全にミルモンに恐怖を抱いたようで、五メートルサイズがペットボトルサイズに呑み込まれている。
「落ち着けクワノス」
と、ヤヤラッタが言ったところでクワノスと呼ばれたミノタウロスは恐怖状態となっているようで、耳には届いていない。
「幹部級を仕留めさせていただく! クラッグショット!」
タチアナを抱えたまま魔法を発動。人間サイズの岩が大地から現出し、ミノタウロスを狙えば、
「小賢しい」
と、ファイヤーボールで岩を迎撃してミノタウロスを守るヤヤラッタ。
迎撃された事への意趣返しとばかりに、パロンズ氏が再びクラッグショットを唱えてヤヤラッタへと攻撃。
「出来損ないの中位魔法など」
容易くハルバートで打ち砕かれるも、パロンズ氏の瞳に弱気なところはなかった。
自信を得る為にこの冒険へと参加したパロンズ氏の姿にはこちらも鼓舞される。
俺だっていつまでも自分の実力で使用できる魔法が下位――しかも初歩だけってのは情けないからな。
――左手に握るマラ・ケニタルへと目を向ける。
「隙を見せてくれる」
「これは隙じゃない」
言葉と残火の刃で返し、ハルバートを弾く。
「まったく。自信を無くしてしまいそうだ。本気となった我が膂力をいなすのではなく、力ではじき返してくるのだからな」
「自信を得るために励む者もいれば、自信を無くすお宅みたいなのもいるわけだ」
「――なんのことかな?」
「身内だけが分かってればいいから気にしなくていいよ。対して俺は、お宅の物理攻撃を弾くだけのピリアは十分に有しているけども――」
「なんだ。歯切れの悪い」
「ネイコスがまだまだなんだよね」
「ならばあの世で精進するのだな」
「いや、現世で精進するよ。まずはお宅を踏み台にしてね。俺にとっての新たなるロイター板となってもらう!」
「口の減らん生意気な勇者だな」
剛力による上段からの振り下ろしも弾き、同時に距離を取る。
ヤヤラッタが追撃の構えとなったところで、
「ウインドスラッシュ」
シャルナが牽制で発動してくれる中位魔法。
俺とヤヤラッタの間を風の刃が通過し、追撃を遮ってくれた。
――風の刃である中位魔法のウインドスラッシュ。マスリリースに酷似しているんだよな。
再び左手に握るマラ・ケニタルへと目を落とす。
魔法の効果で刀身に刻まれたルーン文字の力を発動させ、風の恩恵を引き出すという俺の実力に直結する刀。
タリスマンによって火龍の力を引き出す残火よりも扱いは難しい。
王都に戻ってからはコクリコ達と訓練を行い、二刀の訓練の最中にも外部マナであるネイコスのイメージとコントロール訓練もこなしてきた。
だからこそ――、
「いい加減、中位のネイコスくらい、自力で習得しとかないと恥だ!」
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