PHASE-288【凄く尊き理想胸】

「では、次」

 これがただ強いだけの存在なら、痛い目に遭うだけだと、誰も挑もうとはしないが、新人だけでなくベテランも嬉々として挑む。

 白く輝く美しい髪の美人様と戦うってのが、楽しめる場所が少ない現状の王都では、野郎達にとって娯楽となっている。


 次々と挑んでいっては皆、地に伏していくが、痛みを浮かべながらも楽しげな表情だ。


「今の踏み込みからの振り下ろしは良かったぞ。昇華させ技にしろ」

 てな感じで笑みを向けて言われれば、それだけで新人冒険者は有頂天だ。

 すぐさま立木の方へと駆けだす。痛みなんて有頂天によって忘れてしまっているご様子。

 ――そして始める打ち込み。

 彼を目にして、自分たちも褒められたいと考えるのか、皆して声を張り上げて、立木への打ち込みを全力で行い自己アピール。


 本当に……、ゲッコーさんには見せられないな。

 俺の時にはこんなにもやる気のある奴らはいなかったのに……。とか言って、影を纏うことになるからな。


「次は? これでは体が温まらんぞ」


「温まられたら俺が困るだよな~」


「暢気な登場だな」

 俺がここに来ていた事はすでに知っていただろうに。

 

 ――――俺とベルの間に障害物は無い。

 俺の側にいた野郎達も、息を合わせたかのように俺から距離を取る。


 互いの目と目があう。

 なんとも余裕のエメラルドグリーンだが、俺の黒目も負けてはいないだろう。

 

 緊張はそこまでしていない。さんざっぱら暗示をかけながらここに来たからな。

 今までベルとの打ち込みを娯楽としていた面々が、一気にざわつき始める。

 いよいよか! と、各修練場で己の技量を高めていた者たちが手を止めて、雑草はえる下生えの青空修練場の一点に目を向けている。

 

 点になるのは無論、俺とベルだ。


「皆、ベルを相手によく励んだな。大したもんだ」

 ご苦労様と伝えれば、周囲から会釈が返ってくる。


「立派な者たちだ。お前も会頭として、勇者として恥ずべき事のないように、立ち振る舞わなければな」


「そのつもりさ。だからここに来たんだしな」


「ほう、暢気に登場ではなく、余裕を持っているな」


「まあな。余裕はあっても過信はしてないぞ」

 内心では、お前相手に余裕なんて持つわけない! と、吠えているけどな。


 戦う前にベルの圧に呑み込まれるわけにはいかない。呑み込まれれば、勝負にならないのが更にならなくなる。


 俺一人で挑むとなれば、精神状態が徐々に不安に呑み込まれて、体がガチガチになってしまう。

 折角の暗示が台無しになるのは困る。

 

 なので――――、


「アーバカン、アーバカン――――」

 俺は大音声で連呼する。


 突如、俺がアバカンコールをしはじめたもんだから、ベルだけでなく周囲も何事かと目を丸くした。

 だが、それを気にせず俺は続ける。


「アーバカン! アーバカン――――!」

 声音を強いものへと更に上げ、周囲の野郎一人一人に目を向けて、鷹揚に頷く。

 思いが通じたようで、一人が俺に合わせてアバカンと発せば、伝播するように広がりを見せていく。

 

 コール&レスポンスが成功したところで、声だけでなく動作も加える。

 アバカンと発するたびに、拳を高らかに突き上げる動作を繰り返した。

 

 先ほど倒されたカイルに目を向けて発せば、カイルは俺に後を託すとばかりに首肯し、


「アーバカン! アーバカン!」

 と、座った状態で俺の動作を真似て、声を張り上げる。

 こうなると、俺とベルを直接見る位置にいない者たちも、流れに乗らなければと、「「「「アーバカン、アーバカン――――」」」」と発し、俺が始めた独唱は瞬く間に輪唱へと変わった。

 

 アバカンコールが修練場に轟く。

 

 俺はすでに発してはいないが、更に加熱させるかのように、両手を大の字に広げて、そのまま広げた手を頭上にて叩き、柏手を繰り返す。

 もっともっと滾るんだ! とばかりに周囲を煽っていく。

 

 全方位からの大音声を体に浴びつつベルへと向かい、指呼の距離にて足を止める。

 

 修練場は現在、俺のホームとなった。中二臭く格好つけるなら、野郎達と創造した固有結界。

 熱きアバカンコールは、俺の心象風景の具現化とでも言うべきか――――。


「なんだ? 随分と大仰だな。アバカンと周囲に言わせて戦意高揚か」

 お前にはアバカンは、頑張る的な意味だと誤魔化したからな。


 実際はベルのおっぱいのサイズである、94センチの隠語なんだけどな。

 アバカン。ロシアはイズマッシュ社のアサルトライフル・AN-94。二点バーストがスゲーヤツ。

 俺とゲッコーさんだけが知っている本当の意味。

 

 その耳でしかと傾聴するがいい!

 我が思いに応え、同じ志を抱く豪傑達の猛々しい咆哮を!

 この思いの丈を放出する事で、我らが心象世界が造り出される!


 野郎達の雄叫びと、我が思念により造られたこの固有結界ホームにて、俺は戦わせてもらう!


 これぞ我がEX宝具! おっぱいを思う心象世界からなる固有結界! 凄く尊き理想胸アバカンだ!

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